「実験技術のめざましい進展で、コンピュータとして日常的に使われるレベルでの実現にはまだ道のりは長いですけど、SF(サイエンティフィックフィクション)の域を脱したと思います」(藤井氏)
最近の世界各国の量子コンピュータ開発の様相を見て、このように感想を述べた藤井氏。筆者の問いかけに興奮気味に終始一つひとつ語ってくれた。
IBMが開発した17量子ビットの量子コンピュータを始め、ここ最近の量子コンピュータ周辺のニュースはそれだけインパクトの大きいものばかりだ。
IBMが公開した「IBM Q」研究ラボの様子 (IBM提供)
IBMの「17量子ビット」と聞くと、異なる方式であるとはいえ、D-wave Systemsが開発した2000量子ビットのマシンと比較すると、その規模が非常に小さいものに感じる。
D-wave Systemsが採用した量子アニーリング形式では、基本的には特定の最適化問題を解いてほしい、という要求をするだけで放っておくだけで良い。ここが実現のポイントの一つがある。
一方でゲート方式による量子コンピュータでは、一般にイメージするコンピュータと同様、プログラムがあり、さまざまな要求に対して操作する必要があり、その操作の際に生じるエラーに対しても堅牢である必要がある。
ささいなエラーが生じてもその誤りを直ちに訂正する、または無力化する仕組みを施すことで、ユーザーが実行するどんな操作にも耐えられるようにする必要がある。これを「フォールトトレラント(障害許容)な誤り訂正」と呼ぶ。
「憶測ですが、IBMが開発した17量子ビットのコンピュータの『17』という数字が示す意味は、計算に必要な数値を入力する部分を示す『9』と量子に特有の誤りの2種類を検査するために必要な4ビットが2つで、9+4+4=17ということだと思います。この数字はフォールトトレラントな誤り訂正を実現する最小構成のサイズです。この数字の意味通り、IBMが量子ビットの誤り訂正技術を実装しているという意味であれば、人類の偉大な一歩ではないかと思います」と興奮気味に藤井氏は語った。
量子コンピュータや量子アニーリングの関連研究の最前線を見ることのできる国際会議が6月26~29日に開催される。すでに会場のキャパシティを超えるほどである。その大きな反響を受けて、会議の様子を配信することが決定している
<後編に続く>
- 大関 真之(おおぜき まさゆき) 東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授
- 博士(理学)。京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て現職。専門分野は物理学、特に統計力学と量子力学、そして機械学習。2016年より現職。独自の視点で機械学習のユニークな利用法や量子アニーリング形式を始めとする新規計算技術の研究に従事。分かりやすい講演と語り口に定評があり、科学技術を独特の表現で世に伝える。