知覚のトビラ--AIが拓くICTの未来

先進IT企業がこぞって研究する“テレパシー”--人間と機械の通信は実現するか - (page 2)

日塔史

2017-06-16 07:00

 前回、「情報」とは生命(異星人は地球外「生命」体)と切り話せないパターンであり、「コミュニケーション」とはそのパターンを波に乗せて交信しあうことではないか、とのモデルを提言した。

 繰り返すと、情報コミュニケーションとは「(1)環境からのパターン(情報)を(2)物理的な媒質(空気やケーブル)を通じて、(3)何かしらの波(電磁波や音波)として、(4)感覚器(目や耳)によって、(5)脳で認知している」としたが、このモデルに従うとこの二つの映画での異星人とのコミュニケーションは以下のよう整理できる。

(1)パターン
(情報)
(2)媒質 (3)波 (4)感覚器 (5)認知する
感覚(脳)
映画「メッセージ」 表意文字 (空間) 可視光線 視覚
映画「未知との遭遇」 メロディ 空気 音波 聴覚

 しかし、『未知との遭遇』では「聴覚」で感じる音声のメロディはハンドサイン(手話)によって「視覚」信号に変換されている。さらに言えばこの手話は、例え目が見えなくても手に触ればたちまち「触覚」信号に変換されるだろう。実際にこのような感覚器を超えた言語の“信号の変換”は「ボディ・ランゲージ」のように日常的に行われている。

 遠隔通信としては太古より「のろし」などの視覚信号や「トーキング・ドラム(西アフリカのコミュニケーション向け太鼓)」などの聴覚信号によって言語メッセージを送信していたことは想像に難くない。近代の遠隔通信技術では「電話」は音波を電気信号に変換して電磁波としてケーブルなどの媒質を通じて送信し、その電磁波を音波に復元する技術であり、「インターネット」は媒質を問わずパケットを分散的に送受信するマルチメディア(マルチセンス?)技術である。

 このような感覚および感覚器を超えた情報通信は、IoTによる地球規模でのセンサ化・ネットワーク化によってますます複雑化し、融合していくことは確実と思われる。

 「視覚」信号と「聴覚」信号の越境の例としては、2014年のSIGGRAPHでMIT、Microsoft、Adobeの研究者によって「The Visual Microphone(映像マイクロホン)」が発表された。

 これは鉢植えの葉っぱが揺れる映像から『メリーさんの羊』を再現したり、防音窓の外から菓子の袋を撮影して人間では認知できない振動を視覚的に検知し室内の会話を復元したり(怖い!)、音楽を流しているノートPCにつないだイヤホンの映像からQueenの『アンダー・プレッシャー』を聞いたりしている(つまり映像に写る見えない振動から歌と演奏を含むプロ楽曲を復元した)。

 これらはハイスピードカメラの発達やアルゴリズムによる推定技術の進化によって可能となり、これらの認知技術の越境現象は人工知能によるパターン認識の進化によってさらに進展していくだろう。


The Visual Microphoneの解説映像

 日本では東海大学の園田義人教授が「光波マイクロホン」を開発している。これはレーザー光線が音波にあたってわずかに回折(かいせつ:音波などの波が障害物に当たって回り込むこと)することを検知することにより、「光で音を聞く」技術だ。音も光も「波」であることを如実に認識させられる。

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