FinTechの実際

金融機関の“劣悪環境”に耐えられないデジタル人材--文明開化の必要 - (page 2)

小川久範

2017-06-12 07:00

 同じICTを利用しているように見えても、金融機関とネット企業は分断されている。ネット企業はソーシャルメディアやファイル共有サービスだけではなく、ソースコード管理のGitHubやチームコミュニケーションツールのSlackなどを使いこなし、業務の生産性を高めている。

 今後も新たな技術やサービスが登場すれば、積極的に活用していくことだろう。翻って金融機関が利用するテクノロジを見ると、筆者が新人だった20年ほど前と本質的には変わっていないように見える。

 コミュニケーションツールは相変わらず電話とメールであり、データや資料の共有はファイルサーバを利用している。いずれも20年前には既に存在していたものだ。

 ネット業界の技術の進歩は速く、「ドッグイヤー」と呼ばれる。ネット業界における技術進歩のスピードを、犬の1年間の成長が人間の7年間に相当することに例えたものである。

 20年前の技術しか活用していない金融機関を見てネット企業が思うことは、140年前の金融機関を見た現在の金融機関が思うことに近いのかもしれない。日本初の商業銀行である第一国立銀行が設立されたのが、今から144年前の1873年である。その頃の銀行業務がどのようなものか筆者は知らないが、さすがに今と比べれば非効率で、今さらそのようなやり方に戻りたいとは思わないだろう。


兜町にあった創業時の第一国立銀行。5階建の和洋折衷様式の建物は「三井組ハウス」と呼ばれたという

 ところが、ネット企業から金融機関に転職してきたデジタル人材は、このタイムスリップを体験することになる。本物のタイムスリップなら、現代に戻れるか分からないので、その時代で生きていこうと前向きな気持ちになるのかもしれない。

 しかし、金融機関に転職したデジタル人材は、ネット企業よりもはるかに劣る技術環境で、前職の同僚が自分の7倍のスピードで進歩していくのを目の当たりにすることになる。

 劣悪な環境に耐えられず、そうしたデジタル人材の中から離職する者が出てきたという話が、最近になって複数の金融機関から聞こえてきている。テクノロジの分断が、人材まで分断し始めている。

金融機関には異なる文明を受け入れるくらいの変化が求められる

 金融機関とネット企業の技術レベルやそれに対する姿勢には、国内であっても大きな違いがある。ましてやGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる先進ネット企業などは、金融機関よりも文明のレベルが数段先に行っているに等しい。

 近代文明の技術力の前にアジアやアフリカの国々が列強の植民地にされていったように、GAFAが本格的に金融業に参入すれば、日本の金融機関などは成す術なく敗北する可能性が高い。実際に、GAFAの本業である検索エンジン、スマートフォン、ソーシャルネットワーク、Eコマースでは、国内市場は彼らに支配されてしまった。

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