展望2020年のIT企業

日本発IoTプラットフォームに挑むITベンチャー - (page 2)

田中克己

2017-06-29 07:30

社員の半数が海外の技術者らにするメリット

 2007年11月に設立したKii(当時の社名はシンクロア)の前身は、データを同期させるソフトを開発、販売する米インテリシンクにある。そのソフトを日本の携帯電話会社向けに電話帳同期サービスなどとして販売していた鈴木社長らが、インテリシンクがノキアに買収されたのを契機に、携帯電話会社らと相談、データ同期事業をMBO(マネジメントバイアウト)し、Kiiを立ち上げた。

 しかし、「経営は安定したが、海外市場になかなか出られない」(鈴木社長)。そこで、先の米IT企業を買収したが、日米技術者のコミュニケーションが円滑にいかず、関係がぎくしゃくする。気持ちを一心するため、日米の社名を「覚えやすい3文字のKii」(鈴木社長)に変更した。

 2017年5月現在の社員数は70人弱。半分が東京、残りの半分が米国とスペイン、中国、香港、台湾など海外にいる。海外の展示会に出展するなど市場開拓も担う。さらに米国とスペインは現地法人にし、それぞれに開発チームもおく。スペインは、IoTプラットフォームのサポートで欠かせない拠点でもある。日本が夕方5時になると、スペインは朝9時になり、24時間の監視とサポートが可能になるからだ。

 もちろん、IoTビジネスは世界中で展開する。例えば、規制から日本での立ち上げが難しいとなれば、「さっさとはじめられる国で開始する」(鈴木社長)。危機感から変革を推し進める国でもある。インドのスマートシティはその1つ。Kiiが提供するIoTプラットフォームを、インドIT企業がアプリを含めたシステムとして開発、納入する。「現地のIT企業に仕上げを任せる方法」(鈴木社長)で、大気汚染など社会問題の解決や農産物の生産性向上などへの活用も期待されている。

 シンガポールでは、住宅供給公社が推進するスマートコンセントの実証実験に参画する。電気を無駄に消費していたら、「古いエアコンが原因」などと知らせる。遠隔地から電源をONOFFしたりもする。日本でも、2017年10月から実証実験が始まる関西電力における家庭向け宅内IoTプラットフォームに参加する。

 一方で、鈴木社長らは日本企業のIoT活用が進まないことに頭を悩ます。理由の1つはコストにある。プロトタイプの前段階であるPOC(概念実証)で、ユーザーの経営者が「そんなにかかるのか」となり、一歩を踏み出せなくなる。

 「IoTのハードルは高い」と思われてしまうことを避けるため、少ない予算で取りかかれる方法を用意する。例えば、安価なセンサやゲートウエイなどを用意し、機械設備に取り付けるだけでデータを集められる。IoTスターターキットを含めた各種ハードウエアを開発するIoTベンダーらと組んで提供する。

 Kiiの経営トップは日本人だが、買収などによって社員の半数は海外の技術者らで占める。開発のトップも日本人だが、スペインとシリコンバレーの技術責任者の3人で製品開発の方向を決めている。「日本人だけだと危機感がなくなる。ぼーっとしていると、不必要になってしまう」。58歳の鈴木社長は、世界の技術者らと新しいビジネスの創出に取り組む考えだ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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