本連載でも紹介をしてきたOrbital Insight は、自社では衛星を持たないが、他社から集約した衛星からの撮影画像である、衛星リモートセンシング画像をAIを用いて解析することを主事業としている。
Crawford氏は、クライアントの業界として、金融、小売り、海運、農業などを挙げ、その具体例として石油タンクの備蓄量、自動車や船舶のカウンティングなどの解析について紹介した。その上で、今後のサービス高度化の要件として、雲や天候の影響を受けることなくデータ解析をできるようになることを挙げた。
これまで、米国の衛星リモートセンシング業界の主役は光学画像であったが、雲に覆われた地表面の撮像には適していない。同社は、合成開口レーダー(SAR)画像や赤外画像を導入することで、この課題を解決しようとしている。
Space 3.0時代の注目テーマと次世代技術
Orbital InsightによるSAR・赤外画像への言及のほかにも、NewSpace 2017では、次世代技術として、膨大な数の衛星が地球周回軌道上に飛び交うこれからの時代に必要な技術が挙がった。宇宙デブリ(衛星などの宇宙ごみ)の処理・リサイクル、宇宙空間での衛星への燃料充填、衛星向け大容量・高速通信インフラなどがそれである。
この中でも、衛星事業者を顧客とした通信インフラ提供サービスは、Space 3.0時代の注目領域の一つになると筆者は捉えている。2020年前後には、小型衛星ベンチャー各社のコンステレーション計画は一定の完了が見込まれる。地球周辺の周回する衛星の数が膨大になればその分、リアルタイムで高速に地球に送るべきデータ量も膨大になることが容易に想像される。
このカンファレンスでは、地上局(通信アンテナ)運用を行うATLAS Space Operations、中軌道上を周回する中継衛星を経由して地上にデータ伝送するAudacy、通信電波の性能向上を実現する高度な変調技術を持つAstrapi Corporationが登壇し、通信インフラベンチャーの注目度がうかがえた。
Audacyの中継衛星を介した通信システム
NewSpace 2017におけるもう一つの注目領域は深宇宙、つまり月面や小惑星の開発に関わるビジネスであった。小惑星の資源開発を行うDeep Space Industries、月や小惑星用のローバー(地表面を走行する車輌)開発を行うOff Worldが登壇し、それぞれの展望を語った。この深宇宙分野については、NASA、ルクセンブルグ政府がそれぞれ、この分野において考え得る産業振興の支援策について意見を述べた。
また、法律・ファイナンスの専門家でStanford大学で非常勤教授を務めるBruce Cahan氏を交えて、宇宙資源がコモディティ化した場合の社会経済のあり方について議論するパネルディスカッションがあった。
さらに最終年を迎えた賞金レースGoogle Lunar XPRIZEについて、XPRIZE財団のAmanda Stiles氏が登壇し、月面走行を目指すファイナリスト各チームの最新動向を紹介するなど、多様な議論が展開された。