Intelをはじめとする企業は、人間の脳の仕組みにヒントを得ている。というのも、脳は極めて効率的にものごとを処理できるためだ。脳にはおよそ1000億のニューロン(神経細胞)が存在しており、それぞれに最大で1万ものシナプス接続が存在すると見積もられている。つまり合計するとおよそ1000兆にも及ぶシナプスが、電球1個分よりも少ないエネルギーで動作しているわけだ。もちろんながら、ニューロモーフィックチップはまだこのレベルにまで到達していない。14nmプロセスで製造されたLoihiの試験用チップには、1024個のニューロンからなるクラスタが128個搭載されており、全体で1億3000万個のシナプスを有する13万個のニューロンを実現している。
規模は小さいもののこのチップは、少なくともわれわれが理解している脳と同じように機能する。ニューロンに送られるパルス、すなわち「スパイク」が、ある一定の活性レベルにまで達すると、そのニューロンはシナプス経由で他のニューロンに向けて信号を伝達する。とはいえ、重要な働きの大半はシナプス上で発生する。シナプスには「可塑性」があるため、変化を学習し、それを新たな情報として保存できるのだ。演算ユニットとメモリユニットを個別に搭載した従来のコンピュータシステムとは異なり、ニューロモーフィックチップでは大量のメモリ(具体的にはSRAMのキャッシュ)が演算ユニットと極めて近い位置に配置されている。
スパイキングニューラルネットワークは、全体のタイミングをつかさどるようなクロック信号を必要としない。ニューロンは一定レベルの刺激を受けた場合にのみ発火し、それ以外は休止状態にある。この非同期な動作によりニューロモーフィックチップは、「常に動作状態にある」CPUやGPUよりも格段に優れたエネルギー効率を達成できる。こういった非同期技術の源流は、Intelが2011年に買収したFulcrum Microsystemsにある。同社はEthernetスイッチ用のチップを開発していたが、Srinivasa氏によるとそれは「他のテクノロジで採用してほしいという呼びかけ」のようだったという。