中国ビジネス四方山話

中国版サイバーセキュリティ法での意外な影響

山谷剛史 2017年10月13日 07時30分

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 2017年6月1日に中国版サイバーセキュリティ法(網絡安全法)が施行された。前年11月に全人代でこの法は可決されている。ごくごく簡単に言えば、個人情報保護やネットワークにおける安全保障を目的としたもので、外国のネット企業絡みでいうと、中国の個人情報を海外に持ち出してはいけないというものである。

 既にいくつも関連記事が出ているので、興味がある読者はそれをご覧いただきたい。

 網絡安全法は当然ながら外国企業だけでなく中国企業も対象としている。中国企業も個人情報を利用者の許可なく漏洩してはならないのである。法施行以前は「名前、携帯電話番号、身分証番号」を日本円で1件につき10円程度で、「学歴、マイカー、家、積立金」などの情報も1件につき30円程度で提供する企業が無数にあったが、法施行前に危険を感じたのかそろってサービスを終了している。

 これがなくなると一見いいように聞こえるかもしれない。しかし一部の金融機関から言わせれば、怪しい人物のローン審査で、他所でのよろしくない行動履歴を見ることができないのは大きなリスクなのだ。

 また他所からの個人情報を収集して分析する企業が違法扱いされ、法施行前の5月末から続々と警察による調査が入ったと報じられている。30社が対象となっていて、その多くがビジネス転換を余儀なくされている。データ調査企業の経営陣の間で「今日捕まった?」という言葉が日々飛び交ったという報道も。

 さて中国2大ネット企業の1社であるアリババ(阿里巴巴)の最高経営責任者(CEO)、馬雲氏が「ビッグデータ時代に入った」と宣言したのが2012年のこと。翌2013年には中国でFinTechブームが起こり、ビッグデータで各個人の信用をチェックする話をよく聞くようになった。

 それから4年、個人情報保護法により、自社で利用者の許可を得たデータ以外は使えなくなってしまったし、個人データを他人に渡せなくなってしまった。さまざまな企業での顧客データをビッグデータ向けに収集することも違法ならば、利用者の許可なく提供することもできないのだ。

 ビッグデータだけでなく、他の企業からデータをもらって統計レポートなどを発表していた調査会社も大きな壁が立ちはだかることになった。

 そうなると、自社の顧客データだけで大規模なビッグデータを抱えることができる企業は、インターネット企業大手の「百度」「アリババ」「テンセント(騰訊)」(の頭文字をとって「BAT」と呼ぶ)の3社や、通信キャリアの「チャイナモバイル(中国移動)」「チャイナユニコム(中国聯通)」「チャイナテレコム(中国電信)」3社、それにECサイト大手の「京東(ジンドン)」やセキュリティ企業の「奇虎360」など限られてくる。この中でも特にアリババとテンセントは突出している。

 ビッグデータ分析企業が生き残る手段として、1つにこれまでビッグデータを扱っていた企業同士が法に触れないようにタッグを組むということが考えられる。これにより、双方がデータを得られるわけだ。と簡単にいうものの、ビッグデータを扱う2社が技術的に1つに移行するのはそう簡単ではないし、余計なコストもかかるので現実的ではない。

 また別の手段としては、これまでの経験を生かし、個人情報を取られないようにするためのサービスを提供する方針に切り替えた企業もあれば、レアな個人情報取り扱いに特化した企業もあるようだ。

 とはいえ、法が施行されるからといって、業態を簡単に変化させられるかというと、環境の変化の速さに慣れている中国の企業とて難しい。「ビッグデータ分析企業の9割が淘汰されるのでは」とは業界関係者の間で共通の意見だ。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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