「ブロックチェーンが業務に与えるインパクトは大きい。コア技術とアプリケーションともに未成熟だが、決して無視してはならない。一般企業の業務システムで実用化されるまにでは時間がかかるが、だからこそ今から検討を始めてほしい」―。
3月15日、「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2018」のセッションの1つとして、ガートナーのリサーチ部門でバイスプレジデントを務める鈴木雅喜氏が登壇。「日本のブロックチェーン:今なすべきことは何か」と題して講演した。
ブロックチェーン技術の特徴は、中央集権型ではなく、ノードだけで取引を進める分散型であること。例えば、「鈴木」から「佐藤」への取引内容をポストイットに記して電子署名を施すイメージだ。個々の取引データには直前(n-1)の取引データのハッシュ値も入るので、取引のチェーンができる。
「ブロックチェーンの注目度は高く、グローバルで検索キーワードのナンバー1」と鈴木氏は指摘する。注目度が高い理由は、将来のインパクトが大きいことだ。テクノロジによって社会基盤が変わっていく中で、契約や取引のプラットフォームとしてブロックチェーンは外せないという。
事実、大手銀行はブロックチェーンを活用したさまざまな実証実験を実施中だ。将来の銀行のビジネスを脅かす可能性があるからだ。従来システムの置き換えなどによるコスト削減の狙いもある。今後は、一般企業にも活用が広まっていく。今ならまだ、プラットフォーマーとして主導権を握れる可能性があるという。
ほとんどのブロックチェーンの取り組みはPoC(概念検証)の段階だが、さまざまな業界で恐ろしい数のPoCが行われている。配車サービス、投票、文書登記、保全サービス、宅配ボックスなどだ。「Everledger」と呼ぶダイヤモンドのトレーサビリティのための分散型台帳は、すでに実用化されている。
ブロックチェーン技術は現時点では未成熟
ブロックチェーン技術は、現時点では未成熟だ。技術の普及のトレンドを示すガードナーのハイプサイクルによると、ブロックチェーン技術の応用アプリケーションとして真っ先に成功した仮想通貨は、過度な期待の時期を過ぎて幻滅気に入っており、これから普及する。
一方、コアのブロックチェーン技術は、ハイプサイクルの峠を超えたあたりで、これから幻滅期に入る。コンセンサスアルゴリズム(合意形成アルゴリズム)は、期待のピークに向けて坂を上がっている途中であり、スマートコントラクト(ルールに基付いて契約を自動化する)に至ってはまだ出始めたばかりの技術だ。
ブロックチェーンが実用化されるためには、コア機能だけでなく、開発基盤やアプリケーションが必要になる。セキュリティへの配慮や、管理機能も必要になる。コア機能自体も発展途上であり、これからスマートコントラクト機能(契約の自動化機能)が入ってくる。
「将来は、簡単にブロックチェーンを使えるパッケージ型の製品も出てくるが、それは今ではない」と鈴木氏。だからと言って無視してもいいわけではなく、「トレンドには乗っておかなければならない」(鈴木氏)
文書記録から市場プラットフォームまで用途はさまざま
鈴木氏が挙げるブロックチェーンの使い方は、大きく4つある。(1)既存の仕組みを置き換える破壊的な使い方、(2)デジタル資産を流通させる市場としての使い方、(3)効率化を促進させる使い方、(4)記録管理の使い方、だ。
(1)破壊的な使い方の例が、Gnosisが提供している予測市場のプラットフォームだ。胴元が介在しない賭博システムを構築できる。
(2)デジタル資産市場の例が、NYIAXの広告枠管理システムだ。広告主と広告媒体をP2P(ピアツーピア)でつなぎ、広告の出稿過程で手数料が取られることをなくす。
(3)効率化の促進の例が、Walmartが構築した食品トレーサビリティシステムだ。別の例では、コンテナ出荷時に必要になる貿易取引の書類をブロックチェーンで簡素化する事例もある。
(4)記録管理は、身近な使い方だ。世の中には保全したい文書がたくさんある。これらを管理できる。すでにブロックチェーンを活用したサービスが実用化されている。