「世界的なIT人材獲得競争が激化する中で、日本企業が劣勢に立たされている」。IT調査会社のガートナーでバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める足立祐子氏は3月中旬の同社主催サミットで、こう指摘するとともに、IT人材不足の解消策を示した。
足立氏は「CEOが挙げる成長阻害要因の第1位は人材」と語り、背景には事業部門におけるIT人材需要が過去4年間で1.6倍に拡大したことなどを挙げる。確かに、多くの企業が「IT技術者がいない。見つからない」と表面上、嘆いている。人材不足を招いたのは、IT技術者の給与の安さとキャリパスのなさにもある。米国のIT技術者の初任給は、日本の2倍以上もあるという。「モチベーションが働き環境もない」(足立氏)。元山崎製パン執行役員で計算センター室長を務めたソフトロード顧問の石毛幾雄氏は同サミットで、「IT部門は事業部門の下流に位置付けられていた」と明かす。ここにも、IT人材不足を招く要因がある。
足立氏は、IT人材の偏在化が人材不足感に拍車をかえているという。例えば、IT技術者の4分の3がIT企業にいること。しかも、人材が首都圏に集中し、20代の若手が少ない。そこに、政府によるAIやセキュリティなどIT人材が数年後に数万人不足というデータが独り歩きする。IT部門のリーダーは、デジタル化に向けたIT人材の確保・育成をどうしたらいいのだろう。
有効なのは既存IT人材を生かすこと
足立氏の答えは、簡単にみえる。今いる人材を生かすこと。「デジタル時代になれば、既存のIT人材は不要になり、新しい血を入れなければならない」との考えがITリーダーらの中にあるが、足立氏はそれを否定する。ガートナーの調査では、デジタル・プロジェクトを経験した既存IT技術者の86%が「今後も関わりたい」と前向きに答えている。未経験者でも、34%が「関わりたい」と回答する。しかも、現在稼働中のレガシーシステムの9割が2023年まで使われ続ける。つまり、その知識が必要ということ。純粋なデジタル人材だけでは対応できないと言える。
ITシステム作りの内製化を進めるIT部門もある。新規システムの開発スピードやコスト削減を求めてのことだが、外部の有能なIT技術者を社員として抱えるデメリットがある。そもそも、スキルの高いIT技術者に見合う給与を払えるのだろうか。払えば、既存IT技術者との軋轢が生まれるかもしれない。採用した技術者が次世代技術を継続的に取り込めるかも論点だ。もちろん、社内の評価ルールを変えられるなら、採用は有効な手になる。デジタル化推進のスピードも上がるだろう。
ならば、デジタル・プロジェクトごとに必要なIT技術者と契約したり、外部委託したりするほうがいいのかもしれない。ソフトロードの石毛氏は、ITベンダーの棚卸を提案する。選択の基準は、これまでのような、何人のIT技術者を供給してくれるかではない。どこに強みがあり、どこに投資しているかなどから判断する。