たまに新しいことをやりあげると、もっと悪くなる
経営がやれと言ったときは、やっかいだ。特に、経営が偉い企業の場合、必達目標として展開されてしまう。例えば、某業界では、CRMというソリューションが流行するのだが、自分の会社が入っていないときは、入れろと指示が飛ぶ。急げと言われる。こういう指示命令には、なんとかしてやり上げるのだが、これはこれで、結果として新しい問題を生む。
さきほど、情報システムは欧米よりも10年程度遅れていると述べた。要は、古くなっているのだ。作ったころは最新鋭だったのかもしれないのだが、今となっては古い。古いというのは、パターン化・レイヤ化が進んでいないということに尽きる。ひところからシステムは、特定の機能を発展させることで進化してきた。
OSを分離させてHWだけを取り出す「サーバ」や、OSだって分離させる、DBを分離させるなどなど。当初は、インフラに近いところだったのが、レポーティングだけ分離する、運用管理だけ分離する、インターフェースだけ分離する、プロセス制御(ワークフロー)だけ分離するようになっていっている。こうした、パターン化、レイヤ化が進められていると、その部分を統一することができて、何かを変えたいときに、影響を限定化できる。これが、変化に強いシステムとなる。
しかし、多くの日本企業のITは、この柔軟な構造がとんとできていない。そう、準備できていないのだ。だから、何か新しいことをやりたいと思ったときに、結局は継ぎ足しで作っていくことになる。よく、自虐的に言われることがあるのだが、古い温泉旅館と一緒のようなものになっており、もう建て替えも難しくなっている。
しかしだ。経営というのは、非常に聡明なのだが、こうした実態がよく分かっていない。単に、IT部門の工夫や能力が足りないと思っている節がある。だから、リーダーシップの強いリーダーであるほど、「やれ」と命令をする。こうすることで、例えば、顧客情報が4カ所で管理されるシステムが出来上がり、その整合を取るだけでとても大変なんだけど、マーケティングに資するような情報、すなわち粒度、鮮度、充実度はない。非常に、バランスの悪い仕組みが出来上がるのである。
- 宮本認(みやもと・みとむ)
- ビズオース マネージング ディレクター
- 大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。