ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」

第2回:アナリストの情報を生かす極意--マジック・クアドラントとハイプ・サイクルの正しい使い方

取材・構成=翁長潤、國谷武史 2018年10月17日 06時00分

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 本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。

 ガートナーの有名な「マジック・クアドラント」や「ハイプ・サイクル」などのレポートは、どうやって作成されるのだろうか。第2回はこれらのレポート群に関して、リサーチ&アドバイザリ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデントである堀内秀明氏に聞く。

「マジック・クアドラント」に対する誤解

長谷島:ガートナーのリサーチをもとに多くの成果物を公表していますが、特に知られている「マジック・クアドラント」について教えてください。

堀内:ガートナーと聞けば、「マジック・クアドラントとハイプ・サイクルの会社だ」と言われることがあります。マジック・クアドラントを端的に説明すると、「ある特定市場で競合するベンダー各社を相対的に評価したレポート」です。

マジック・クアドラントでは4つの象限に位置づける形でベンダー各社を評価している(出典:Gartner)
マジック・クアドラントでは4つの象限に位置づける形でベンダー各社を評価している(出典:Gartner)

 マジック・クアドラントでは、縦軸の「実行能力」と横軸の「ビジョンの完全性」でベンダー各社を評価し、「リーダー」「概念先行型」「特定市場指向型」「チャレンジャー」の4つのクアドラント(象限)に分類しています。

 縦軸の実行能力では、「市場への浸透状況」「顧客対応」「会社の経営状況」「製品・サービスに対する満足度」「市場からのフィードバックに対する対応状況」などを調査して評価しています。横軸のビジョンの完全性では、「市場に対する認識度」「自社の強みを踏まえた事業戦略」「製品・サービスの革新性」「マーケティング戦略」「販売戦略」「地域戦略」などを評価しています。

 マジック・クアドラントで誤解していただきたくないのは、「リーダー」(4つの象限の右上側)に位置付けられているベンダーが、誰にとっても一番優れているというわけではないことです。これは、ガートナーが「このベンダーは市場のリーダーです」と言っているわけではなく、相対的な評価スコアが縦軸・横軸の双方で高いため右上の象限にプロットされたというのが正しい見方です。

長谷島:なるほど。その他の分類にはどのような特徴があるのですか。

堀内:例えば、「革新性」は相対的に高くはないものの、市場でのシェアが非常に大きいような場合、「チャレンジャー」(4つの象限の左上側)に位置づけられることが多いです。また、ビジョンは明確で競争優位性も高いが、それを実現するケーパビリティが相対的に弱い場合や、包括的かつ革新的な製品やサービスを提供しているものの、ユーザー企業の考え方が追い付いていないような場合は「概念先行型」(同右下側)、特定の産業や地域に極めて強いベンダーは「特定市場指向型」(同左下側)に位置付けられることが多いです。

 ほとんどのマジック・クアドラントは年1回のペースで更新されており、担当アナリストは日々のリサーチに加えて、このレポートに特化したサーベイを行うなど、作成に多くの労力をかけています。実は、ベンダーが分析対象になるには、最初にハードルがあります。その基準をクリアできて初めて、マジック・クアドラントでの評価対象になります。

長谷島:ベンダーが評価対象になるための最初のハードルでは、どんなクライテリア(判断基準)があるのでしょうか。

堀内:市場によって変わります。例えば、私が担当するビジネスインテリジェンス(BI)の分野では、「市場への影響力」「売り上げ」など5つの基準があります。「サーベイに対する回答の有無」も基準の中に含まれています。

長谷島:ベンダーから「なぜうちは掲載されていないのか」という問い合わせもありそうですね。

堀内:はい。ベンダーからの問い合わせもありますし、「掲載されるにはどうすればよいか」と聞かれることもあります。そのため、レポート内には、「評価対象となるために満たすべき基準」が明記されています。

長谷島:中立的なガートナーの評価なので、捉えようによっては対象となる企業がナーバスになるでしょう。レポートを公表する側の責任は非常に重いですね。

堀内:そうですね。事実誤認があるといけないので、ベンダーの分析についてはファクチュアルチェック(事実確認)をしています。事実と異なることがあれば指摘してほしいと、発行する前に確認しています。

マジック・クアドラントは、ベンダー企業の特定マーケットでの立ち位置を客観的に評価したレポートで、そのポジションに一喜一憂するベンダーもある
マジック・クアドラントは、ベンダー企業の特定マーケットでの立ち位置を客観的に評価したレポートで、そのポジションに一喜一憂するベンダーもある

長谷島:マジック・クアドラントの効果的な活用方法を教えてください。

堀内:まず、自社で検討しようとしている製品やサービスが、どのような市場に属しているもので、どのような市場トレンドのなかで、どういったベンダーと競合しているのかを確認するには非常に良いレポートだと思います。評価対象となるために満たすべき基準を満たすことができず、掲載されなかったベンダーについても、アナリストがそのベンダー企業に関する知見を持ち合わせていることもあり、問い合わせに応じて解説することもあります。

 加えて、製品やサービスの評価に関する情報は、マジック・クアドラント以外でも提供していますので、他の情報を合わせて利用することをお勧めします。例えば、日本語版では提供されていないのですが、「Peer Insights」では、製品やサービスのユーザー企業の生の声を取り上げていますので、自分たちの想定する使い方に合致するコメントがないかを確認したりできます。

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