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日本発のグローバル標準を目指すブロックチェーンベンチャー

田中克己

2019-04-16 07:00

 データの共有や改ざん防止、ゼロダウンタイムといった特徴を有するブロックチェーンの活用が実用化の段階に入るとともに、標準化をめぐる競争が起き始めている。そこに名乗りを上げたのが、日本発のグローバル標準を目指すブロックチェーンベンチャーのソラミツだ。オープンソース関連の非営利団体であるThe Linux Foundationにブロックチェーン基盤「Iroha」のコードを提供し、共同開発プロジェクト「Hyperledger」のインキュベーションとして承諾された。同社はそれを契機にグローバル化に大きく踏み出そうとしている。

カンボジアやロシアの金融機関との共同開発に取り組むソラミツ

 2016年2月に設立したソラミツは、ベンチャー育成などを手がける松田一敬氏(特別顧問)と、トーマツなどで新規株式公開(IPO)を担当した岡田隆氏(代表取締役)、米軍物流システムなどの開発に携わった武宮誠氏(代表取締役)の3人で創業した。

 Irohaを約7カ月で開発したのは、米国出身の武宮氏らだ。同氏が来日し、日本の研究機関に勤務したころに仮想通貨「Bitcoin」が話題になり、「もっといい仕組みを作れる」と自ら仮想通貨向けブロックチェーンを開発する。さらに汎用的なものとして、Irohaを開発し、世界に通用するものにするためにオープンソース化した。2017年1月に最高執行責任者(COO)に就いた宮沢正和氏(現在は日本市場を担当する特別顧問・SORAディレクター)は「日本のエンジニアの力だけでは、グローバルになれない」と、その理由を説明する。ソニーや楽天で電子マネーを担当した経験を持つ同氏は、標準化の重要性も認識していた。

 そうした中で、カンボジア国立銀行からソラミツに声がかかった。Irohaのコミュニティーを通じて、「興味があるので、説明してほしい」との依頼が舞い込んできた。「偽物だろうか」と疑問に思ったが、武宮氏と若いエンジニア、宮沢氏の3人でカンボジアを2017年2月に訪問、同銀行の責任者らと面談し、「銀行口座を持つ国民が約18%だが、スマートフォンの普及率は約150%で、1人2台持つ人が少なくない、などといった同国の事情を聞けた」(宮沢氏)という。

 同銀行は、2017年4月にIrohaを活用した新しい決済インフラの共同開発を決定する。「現在、フィールドテスト中で、問題がなければ、次の段階に進むだろう」(宮沢氏)。実用化のメドは未定だが、ソラミツはここでの成果をグローバル展開する計画がある。現在、世界の40以上の中央銀行が紙からデジタルへの移行を模索し、ブロックチェーンを活用した実証実験に行っている。そこに、同社を含めた世界のIT企業が支援の手を挙げている。

 2018年には、ロシア証券取引所グループ(ロシア連邦証券保管振替機関)と合弁会社を設立する。仮想通貨などの取引履歴を管理するブロックチェーンシステムを共同開発するために、ロシアにエンジニアを確保する。実は、ソラミツの社員約60人のうち、日本にはわずか10人程度で、多くがロシアとカンボジア、スイスの開発拠点にいる。ロシアにはソラミツの最高技術責任者(CTO)がおり、開発全体を統括する。

トークンエコノミーという新しい経済圏を創り上げる

 もちろん、日本でもブロックチェーン市場の開拓に取り組んでいる。2016年11月には東京大学や会津大学、国際大学GLOCOMと会津若松市で、イベント向け地域通貨の実証実験を行う。会津大学らとはスマートフォンから使える学内通貨やユーザー同士の個人間送金の実証実験も実施する。あいおいニッセイ同和損保らとネット上で契約の自動的な検証、執行、実行を可能にするスマートコントラクト保険、楽天証券などとは本人認証の実証実験をそれぞれ実施した。

 だが、多くが実証実験から前に進まない。そこで、慎重な大手以外と新しい仕組みを作り上げる新産業にブロックチェーン活用を働きかけることにした。カンボジア国立銀行の仕組みをダウンサイジングした地域通貨を、自治体や地方銀行、地場企業にも提案する。「Irohaは、決済に使いやすい仕組みを簡単かつ安価に作れる」(宮沢氏)

 こうした用途を広げるには、地域経済発展や地方創生に貢献するエコシステム作りやアイデアが求められる。宮沢氏は一例を挙げる。イベントなどに協力したボランティアに報酬として、トークンというコインで支払う。欧州では、料理を教えたら、コインを渡すといったスキルのシェアに活用する事例があるという。企業なら、「いいプレゼンだった」とコインで報いる。「ありがとう、といったお金に換算できないものを数値化するものだ」(宮沢氏)。価値の提供に対する「善意のコイン」(同)ともいえる。

 ソラミツはトークンエコノミーという新しい経済圏のプラットフォームも狙っている。例えば、ワインなどの限定生産の商品、Eスポーツやアニメ、バーチャルアイドルなどを手掛けるスタートアップの資金調達、国際送金などだ。同社は既にスイスで、トークン発行のライセンスを取得し、全世界で「SORAトークン」の発行準備を進めている。

 キャッシュレス化の流れも、ブロックチェーン活用のチャンスになる。日本もQRコード決済の対応が進んできた。Irohaを活用した仕組み作りや開発に取り組む仲間も増えている。パナソニックやNTTデータ、インテックなどの開発パートナーと、IIJなどのユースケースパートナーだ。宮沢氏は「商用化の段階ではない、という人がいるが、そうではない」とし、実用化に強い手応えを感じている。

 岡田氏はニューヨークで最新情報を入手し、武宮氏は世界各国にIrohaを売り込み、宮沢氏は日本市場開拓を担う。そんな同社の次の手に注目する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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