米Googleは、4月9~11日に米国サンフランシスコで開催した年次カンファレンス「Google Cloud Next '19」で122件にも及ぶ発表を行った。その中でも特に注目を浴びたのは、ハイブリッドクラウドプラットフォームの「Anthos」だ。このAnthosについて、また今回公式の場でGoogle Cloudの新CEO(最高経営責任者)として初登場したThomas Kurian氏について、グーグル・クラウド・ジャパン 代表の阿部伸一氏が日本の報道陣に語った。
グーグル・クラウド・ジャパン 代表の阿部伸一氏
Anthosへの高い期待値
Anthosについて阿部氏は、日本の顧客からの反応も良好だとして、「単なる一つのコンポーネントというよりも、クラウドOSのようになるのではないか、という点で期待値が高まっている」と述べた。
Anthosの具体的な適用例として同氏は、ネットワークゲーム内にて開催されるコンサートで、一気にユーザーが集まるようなケースを挙げ、「コンテナベースで作られていれば、例えば、15万コアが瞬時に立ち上がっても対応できる」としている。
また製造業では、エッジやサーバー、センサーなど、物理的な分類を重要視しており、全てを統合する手段がなかったが、「Anthosで共通化すれば、ITインフラの場所を気にすることなく開発や運用ができるようになる」と語る。
製造業はクラウドへの障壁が高いといわれているが、この点については「コネクテッドカーが普及期に突入するなどして、トランザクションの数が増えており、製造業でも適材適所でクラウドを使うという発想に変わってきている。システムの移行も伴うため、すぐに全てが変わることはないが、土壌は整ってきた」としている。
さらに阿部氏は、「Anthosによって抽象化を高めることで、サーバー稼働率の向上が見込めることから、コスト意識の高い企業からも注目されている」と述べたほか、管理の一元化と可視化が実現するため、それが“気づき”につながり、さらにはアクションへとつながるといった顧客からの期待の声を紹介した。
Kurian氏の新体制で営業力を強化
今回のGoogle Cloud Next '19は、Kurian氏が1月の就任後、初めて公式の場に登場したイベントとなった。基調講演で同氏とともに壇上に立ったパートナー企業のスピーカーたちも、新しいポジションに就任した同氏に次々と祝辞を述べていた。
Kurian氏就任後の変化について阿部氏は、「天地が逆転するような変化は起こっていないが、ユーザー企業に寄り添っていこうという考えがより先鋭化されている。特に、エンタープライズへのフォーカスが重要視されてきた」と語る。
Kurian氏は基調講演の場で、「顧客から『Googleは営業が少ない』と指摘される」という懸念点を挙げていた。阿部氏もこのことを改めて取り上げ、Kurian氏の体制になって以来、「エンタープライズ顧客に対する営業の増強に力を入れている」と説明する。
阿部氏は、顧客から「毎日でも営業に来てもらいたい」といった要望があるとして、「企業はGoogleとともにビジネスができる可能性に非常に興味を持っている。そのため、これからはテクノロジーの価値だけでなく、その価値をどうビジネスの価値につなげることができるのかを伝えていかなくてはならない」と語る。
阿部氏によると、前CEOのDiane Greene氏の時代から、Google Cloudでは「常に顧客の声を聞き、それを実現する」というマインドセットを徹底していたという。Kurian氏のリーダーシップの下、「それをさらに徹底させる方向だ」と阿部氏は説明する。
それでもエンタープライズクラウドの世界では、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft AzureといったサービスがGoogle以上に幅を利かせているのが現状だ。こうした競合に対する勝算については、「テクノロジー面でのリーダーシップを押し出すだけでなく、使いやすさやパートナーとの協業モデルを加速させることで企業の要望に応えたい」と阿部氏は語る。
今回Googleでは、オープンソース関連企業各社との提携も発表し、パートナーエコシステムの重要性を強調していた。こうした取り組みも含め、「Googleが全てを提供するのではなく、ユーザーフォーカスで適材適所に価値を創造していきたい」と阿部氏は述べた。