アクセンチュアは6月17日、「デジタル時代に日本企業が勝ち残るためのポイント」について記者説明会を開催した。同社の経験に照らしてデジタル変革の推進で直面する課題とその解決を図るポイントなどを解説している。
デジタル変革への取り組みが叫ばれる昨今、いまだ受け身の姿勢でいる企業は少なくない。同社の常務執行役員 製造・流通本部 統括本部長を努める原口貴彰氏は「“機会の扉”というのは、突然開いて閉じる。そして開いている期間は年々短くなっている。企業は今後『どうすれば扉の中に入れるのか』を考える必要がある。扉が開いてから準備するのでは間に合わないので、先手を打つことが重要だ。そうしなければ今後、新たなエコシステムやプラットフォームの一員にはなれないだろう」と語った。
同社の原口氏
企業が先手を打つには、どうすればいいのだろうか。原口氏は、アクセンチュアが考案したフレームワーク「WISE PIVOT(賢明な事業転換)」について説明した。WISE PIVOT は、「Grow the Core(中核事業に向けた投資)」「Transform the Core(中核事業の変革)」「Scale the New(新規事業の拡大)」という3つの構成要素で成り立っている。
WISE PIVOTについて同氏は「分かりきっていることだと思われるかもしれないが、自社の役員と一緒にこれら3つの要素をバランス良く同時に行う必要がある。Transform the Coreには、『中核事業でさらにもうける』ということだけでなく、『中核事業の強化により資本を生み出し、新規事業に投資する』という転換も含まれている。顧客企業がWISE PIVOTを偏在的かつ永続的に進めるには、一過性のプロジェクトとして行うのではなく、WISE PIVOTを可能にする仕組みを社内に作るべきだ」と述べた。
続いて、製造・流通本部 デジタルイノベーショングループ統括マネジング・ディレクターの田村憲史郎氏が登壇した。同氏によると、WISE PIVOTを成功させる鍵は「不確実性のコントロール」「経営スピードの加速」「方向転換時における社員のベクトル一致」「不足しているものを満たす道筋の具体化」「“異物”のコントロール」の5つであるという。
だが、多くの日本企業が内包している課題がWISE PIVOTの成功を阻んでいると田村氏は指摘し、その課題には以下のようなものがあるとした。
経営目線の古さ
PL(Profit and Loss Statement:損益計算書)視点の経営により、過去の売り上げ・コストをもとに延長線上で未来を捉えている。そして経営モデルが単純化されている分、論理的な思考ばかりが重要視されており、「ロジックがつながっているかどうか」が優先される。その結果、不確実性の高いものや論理的な説明が難しいものに大胆な投資ができなくなっている。
意思決定の重さ
社内で高い立場にいる人は多くの承認をする必要があるため、社員には「上司が提案を見た瞬間に是非を判断できるように準備すること」が求められ、提案の内容ではなく用意周到さが重要視される傾向がある。結果として提案を通すため、社内向けの資料や理論武装に時間を要してしまう。
同社の田村氏
田村氏は、この2つの課題を克服するための指針を解説した。同氏によると、経営目線の古さに対しては、PL視点ではなく「EV(企業価値)」に基づいて考えることが必要だという。AmazonやGoogleと比較して日本の大企業は「FV(将来価値)」に対する期待値が低く、それによりEVも低迷している。FVが高い企業には共通点があり、小売企業の場合「積極的な海外展開」や「デジタルへの素早い対応」などがある。このようにEVの視点に立つと具体的に何をするべきなのかが見えてくるとしている。
意思決定の重さに対しては「スピーディーかつ意思決定者も含めて決めること」「どんどん形にすること」を同時に行うことが必要だという。そして、ひとまず形にして課題が見つかったらすばやく軌道修正するという形をとるべきだとしている。田村氏は「これまで日本企業は、現在の業績を起点に3年先の数値目標を立て、その間の施策を策定していた。だが、全ての策定を立てるには数カ月から半年がかかり、完成した頃には状況が変わっていることが多々ある。顧客のニーズをもとに目指す方向性だけを決め、あとは仮説検証サイクルで適時修正する方がよい」と説明した。