山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

「Kitten」で目指す中国のSTEM教育--プログラミング学習系企業が勃興

山谷剛史

2019-07-29 07:00

 中国には、深セン点猫科技という企業が提供する「Kitten(編程猫)と呼ばれる子ども向けプログラミング言語学習環境がある。Googleに対する百度、Twitterに対する微博(Weibo)のように、Kitten(編程猫)も米MIT Media Labが開発した「Scratch」の後を追う形で2015年に登場したツールだ。幸い、Scratchはまだ中国で利用可能であり、同ツールを活用した子ども向けプログラミング教室の募集を幾つも確認できる。

 百度などの中文検索サイトで「Kitten 編程猫」というように画像・動画を検索してもらえばイメージをつかめるだろう。Scratchによく似ていることが分かる。利用者の声によると、「基本的にはScratchと一緒で大きな違いはない」や「一見するとScratchだが、より中文化がしっかりしているという意味では改良している」という。

 ちなみに深セン点猫科技は、「Minecraft」のような世界観でプログラミングを学べる「box.game」というツールをリリースしている。ただ、Minecraftに比べて挙動がもっさりしているようだ。こちらも画像や動画を検索してもらえばイメージがつかめるはずだ。

 Kittenは、ただツールが提供されているだけではない。これまでオンラインレッスンのほか、夏休みや冬休みに集中講座なども開かれてきた。加えて、自動応答のAI(人工知能)によるサポートとオンライン講師によるリモートレッスン、オフラインでのサポートを組み合わせたパッケージ「AI双師課堂」の提供や、中国国内の小中学校への学校向けパッケージの普及も明らかにされている。また中国国外への展開も進んでいて、ベトナム政府の教育担当行政機関との提携など、東南アジアでの普及を目指している。

 背景には、中国政府の教育政策が関連する。2010年には中国政府教育部が「国家中長期教育改革と発展計画綱要(2010~2020)」を発表し、2014年には阿里巴巴(Alibaba)のある浙江省の教育庁が大学入試科目にいち早く情報技術を採用した。2015年には、中国政府教育部が2020年までのSTEM教育などについて定めた「教育の情報化に関する第13次五カ年計画」を、2017年には中国政府国務院が小中学校でプログラミング教育をすることを推し進める「新一代人工知能発展計画の通知」を発表した。その後、2017年末には、遼寧省が大学でAIに関連する教育を強化することを、2018年には重慶市が各小中学校に最低1人はプログラミング専門の教師を配備すること、浙江省が教育のデジタル化への転換を一気に推し進めるとそれぞれ発表した。

 こうした政府による情報教育推進の姿勢を背景に、中国ではKittenのほか、多数のプログラミング学習系スタートアップが登場している。中国における新規の子ども向けプログラミング学習関連企業は、2015年には19社、2016年には24社、2017年には42社、2018年には上半期だけで34社が登録されてりるという状況で、指数関数的にその数は増えている。多くはSTEM教室を展開する企業であり、中国を代表する大都市の北京・上海・広州・深センなどで教室を展開している。これらは教室での授業に加え、オンラインでの学習状況確認や学習フォローなどが当たり前となっている。

 Kitten 最高経営責任者(CEO)の李天馳氏によれば、「北京・上海・広州・深センといった大都市では、家庭で保護者がプログラミング教育の重要性を感じていて、その品質を求める段階にある。またこの4都市に続く省都クラスの都市でプログラミング教育市場は発展している」と語る。その上で「3年内に中国全土の100都市1000店舗に、4~16歳までが学べるプログラミング学習センターを設立する」と目標を掲げた。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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