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マーケティングが直面する「不都合な真実」--デジタル変革への礎をどう築く?

國谷武史 (編集部)

2020-01-15 06:00

 Sitecoreは、企業のマーケティング部門が直面する「不都合な真実」と題する提言をまとめた。ここで指摘されたものは、実は日本企業が経営課題に掲げるデジタル変革(以下、DX)にも関係しているという。そこでマーケティングを取り巻く「不都合な真実」の実態とそこから得られる知見について、Sitecoreの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるPaige O'Neill氏と、DXに詳しい青山学院大学 地球社会共生学部教授でアバナード デジタル最高顧問を務める松永 エリック・匡史氏に聞いた。

 O'Neill氏によると、「不都合な真実」は同社が直近の1年間に行った複数の調査から分かってきた。デジタル変革による新しいビジネスの要素の一つに「顧客体験(CX=Customer Experience)」があり、企業にとってCXの重要性が高まりつつある。

 調査では、CXが差別化要素になると考える企業は10社のうち9社という割合で、89%がビジネスの成功にも直結すると考えている。95%がCXの改善が急務だと認識しているが、自社がCXで成功していると見る企業は11%に過ぎなかった。61%はCXの取り組みがうまくいかずに収益が低迷し、英国ではその損失が年間370億ポンド(約5兆3100億円)に達する試算もあるという。

Sitecore 最高マーケティング責任者のPaige O'Neill氏
Sitecore 最高マーケティング責任者のPaige O'Neill氏

 O'Neill氏は、「CXへの取り組みはCMOの責務とする割合は40%に達する。ただ、日本では異なる状況も見受けられる。企業は『不都合な真実』からどこにフォーカスすべきかを探ってほしい」と話す。

不都合な真実1:経営者はマーケティングに興味なし

 不都合な真実の1つ目は、経営層の大半がそもそもマーケティング活動に興味がないことだという。O'Neill氏によれば、最高経営責任者(CEO)の80%は、CMOを信用せず関心もないと答えており、CXへの投資権限を持つCMOは11%だった。

 「まず経営層の理解不足があり、それがDXの推進にも影響している。一方で『自分はCXの専門家だ』と考えるマーケティング担当者は多い。IT部門との連携でもコミュニケーションやテクノロジーへの理解における不足が生じている。それぞれがもっと連携していかなければならない」(O'Neill氏)

 ここでマーケティング部門がとるべき行動は、(1)経営層と真剣に向き合い信頼関係を深める、(2)経営戦略とマーケティングの重要性を形で示す、(3)CXの意義を経営層に理解させる――ことで、経営層とマーケティング部門のより緊密な連携が求められる。

 しかし松永氏は、日本では両者の関係性がまだこの段階に達していないと指摘する。日本企業はいまだプロダクトアウトの考え方が根強く、商品を起点にマーケティング戦略を考え、実行してしまう。それが販売にも影響、DXの観点では“オフライン(実店舗)からオンライン(ネット)へ”という数年前のトレンドに固執してしまっている。

 「現在は、『AIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)』の購買決定プロセスから『AISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)』、さらにTouch(商品に触れる)が入り『AISTAS』へと購買行動は変化している。“オンラインか、オフラインか”ではなく両者一体で捉え、商品を通じて顧客にどのような体験を提供し、5年、10年という時間を通じて関係を築きながら、どのような価値を提供していくのかが重要になる。(これからの市場を担う)ミレニアル世代にとってオンラインはリアルと同じであり、逆にリアル店舗が非リアルに感じることもあり得る。この推移をマーケティング戦略にも取り込む必要がある。プロダクトアウトよりダイナミックな顧客のニーズの変化に応える柔軟な発想でなければ難しい」(松永氏)

 松永氏によれば、DXとは、テクノロジーを活用しながら企業のビジネス全体を変容させていくことを指す。その意味では、プロダクト主体や縦割り型の組織ではなく、トップが目指すDXのビジョンや戦略のもと、その取り組みを推進していくマーケティングやセールス、ITなどの関係者が横断型で行動していける環境づくりが、まずは重要になる。その上でマーケティング部門は直面する課題を乗り越えていく。マーケティング部門には今後、より経営から始まり他部門とのコラボレーションが必要になる。

不都合な真実2:顧客の“個客”化は無理

 O'Neill氏の挙げる2つ目の不都合な真実は、「顧客のパーソナライズには限界がある」というものだ。CXを高めるには、顧客一人ひとりのニーズに応じた価値を提供できることが望ましいとされる。

 「ベテランのマーケティング担当者の85%はパーソナライズこそが差別化や優位性につながると考えている。テクノロジーを活用して初歩的な取り組み(例えば、地域別のキャンペーン施策など)なら実現しているという企業は23%あるが、一方でパーソナライズに必要な計画や予算を持ち合わせていないところも49%に上っている」(O'Neill氏)

 真に顧客のパーソナライズが実現されれば、企業は長期にわたって収益を獲得できるようになるとの期待がある一方、O'Neill氏によれば、現実には経営層からの支援や予算の不足が障壁となって困難だと考えるマーケティング担当者が多い。

 この点について松永氏は、「オンラインの膨大な顧客のパーソナライズはそもそも無理であり無意味」との見解を示す。当然ながら顧客が企業に期待する価値は千差万別であり、現実的に限られたリソースでその全てに応じようとすれば、いずれ疲弊してしまう。また大部分のターゲットになり得ない顧客へのパーソナライズの対応によって大事な顧客への読み間違いや十分なリソースが避けないというリスクも発生してしまう。

 「例えば、フリーミアムモデルが注目されたが、多くの人があまりお金を払わずにサービスを受けることに慣れてしまっているのは事実。残念ながらサービスの価値を認めて対価を支払う顧客は限定されてきている。一方で、膨大な顧客の中には価値を認めて適正な対価を支払う存在も一定数おり、それはオンラインに限らない。データを活用しながら、ネットに拘らずそのような顧客を見つけられるかがポイントになる」(松永氏)

 優良顧客を見いだし、パーソナライズを進めいくにもいろいろな方法がある。O'Neill氏は、まず小規模に試行錯誤を重ねて効果的な方法を見つけることが大切とアドバイスする。肝心なことは、場当たり的にパーソナライズを試行するのではなく、一貫性のある戦略によって企業が提供できる価値を顧客に理解してもらえるか――だという。

 松永氏も、「プロダクトありきの方法では一貫性のあるアプローチができない。顧客の期待は絶えず変化するので、トライ&エラーは当然のことであり、失敗から学び、常により良い方法を模索しながら成長につなげられるかが大切だ。デジタルの時代は、ベータ版レベルで市場でサービスを磨くような勇気も必要になってきている」と話す。

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