新型コロナ禍でブロックチェーンの重要性を説くIBM

國谷武史 (編集部)

2020-05-19 06:00

 日本IBMは5月18日、ブロックチェーンのビジネスに関するオンライン説明会を開催した。新型コロナウイルス(COVID-19)時代のビジネスでは、ブロックチェーン技術がますます重要になるとしている。

 同社にとってブロックチェーンは、クラウドやAI(人工知能)、量子コンピューターと並んで今後の成長を左右する重要なテクノロジーの1つだという。最近はオープンソースのHyperledger Fabricをベースとする「IBM Blockchain Platform」をコンテナー化して、Red Hat OpenShiftなどを使って自社のIBM Cloudで提供したり、オンプレミスやその他IaaSで展開できるようにしたり、またはSaaSとして提供もしている。

「IBM Blockchain Platform」の概要(出典:IBM)
「IBM Blockchain Platform」の概要(出典:IBM)

 取締役専務執行役員の三澤智光氏は、そのコンセプトを「どこにでもデブロイでき、ロックインなしでブロックチェーンのサービス開発ができる『Blockchain Anywhere』」と述べた。同社としては、特にサプライチェーン領域に注目しており、「COVID-19後の新たな仕組みブロックチェーンが活用されていく」(三澤氏)という。

 ブロックチェーン事業部長の髙田充康氏は、COVID-19によって「これからは、人が動けないことが前提になった業務となる。その点でブロックチェーンが持つ可視性と信頼性という属性がこれからの業務に果たす役割は大きい」と話す。説明会では、その業界別事例として国際貿易、食品トレーサビリティー、サプライヤー契約の3つを挙げた。

 国際貿易では、2018年から物流大手のMaerskと「TradeLens」というブロックチェーンプラットフォームを展開しており、これまでに累計9億件以上のイベントや1000万枚近い貿易文書を扱っているという。髙田氏によれば、COVID-19のパンデミックにより国際貿易での混乱も生じており、今後はいまだ残る紙文書ベースの業務プロセスのデジタル化が焦点になる。一方、国内ではスモールスタートによりブロックチェーンの適用に向く領域を広げている段階という。

国際貿易における利用状況(出典:IBM)
国際貿易における利用状況(出典:IBM)

 食品分野でも2018年からWalmartと「IBM Food Trust」を開発している。トレーサビリティーでのブロックチェーン活用を皮切りに、2019年からはCarrefourと同社のプライベートブランド商材に関する消費者向けのトレーサビリティーサービスにも利用されている。Golden State Foodsとは、高級ハンバーガーに使うパティの輸送管理で取り組む。

 高田氏は、トレーサビリティーでのブロックチェーン利用は付加価値の高いサービス開発がしやすいユースケースであり、製造業などにも応用しやすい。食品業界に関しては、既に世界で200社以上が参加しているといい、これをベースに他業種に展開するための「IBM Blockchain Transparent Supply」を開発して、タイヤやコーヒー豆の輸送や輸出入に展開している。

トレーサビリティーでのブロックチェーン利用からは多くの業種に横展開できるという(出典:IBM)
トレーサビリティーでのブロックチェーン利用からは多くの業種に横展開できるという(出典:IBM)

 サプライヤー契約の分野は、喫緊のユースケースで注目されるという。ここでは「Trust Your Supplier」と呼ぶサービスを展開し、バイヤーが信頼し得る新規のサプライヤーを短期で獲得できるようにする。

 COVID-19の感染拡大によって医療崩壊に直面する国々で医療用マスクや人工呼吸器などが枯渇する危機的状況にあるが、例えば、電機メーカーが人工呼吸器を新規に製造するなど、異業種の支援が相次ぐ。従来はこうした新規のサプライヤーの審査に何カ月も要したが、ブロックチェーン上に記録されたサプライヤーの履歴を活用すれば、バイヤーも数日程度で新たなパートナーを見つけられる。同社は、米国では8月までTrust Your Supplierサービスを無償提供している。

「Trust Your Supplier」の概要(出典:IBM)
「Trust Your Supplier」の概要(出典:IBM)

 これらの事例はSaaSとして同社が提供するブロックチェーンサービスであり、先述のようにコンテナー化していることで、オンプレミスの仮想化環境でも利用できる。高田氏は、国内でもこうした形で本番稼働を近く迎えるという幾つかのプロジェクトを挙げた。三井物産グループのグルーヴァースでは、ウェルネスサービス「ウェルちょ」で採用しており、健康商品購入時に付与されるポイントの管理などに使う。オートバックスセブンでは、中古自動車の売買管理に利用する。決済システムでは、既にソフトバンクやTBCASoftと通信事業者向けの施策を推進する。

 高田氏は、ブロックチェーンを適用する業界や用途などに応じてさまざまなパートナーエコシステムを形成しているとも説明。例えば、水産資源では、海光物産およびシーフードレガシー、ライトハウス、アイエックスナレッジと、東京湾で獲れるスズキのトレーサビリティーをIBM Food Trustベースで構築している。

 また、インテックとはEDI(電子データ交換)のノウハウを応用して、食品の安全や安定供給などに向けて、さまざまなオープンデータと法規制や業界規制などをブロックチェーンで管理していくことで準備を進めているという。

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