新型コロナウイルスの感染拡大がSI(システムインテグレーション)需要に影を落とし始めた。調査会社のIDC Japanは、2020年のIT支出を6%程度の減少と予測するが、受託ソフト開発を含めたSIはそれ以上に落ち込みそうだ。
SI業界団体の情報サービス産業協会(JISA)が4月30日に発表した2020年4~6月期の売上見通しの「増加から減少」を引いたDI(景気動向指数)値が、前期(1~3月期)の41.4%から一気にマイナス35.0%と76ポイントも下落した。業界関係者は「2020年度上期(4~9月)は、2019年度下期の受注残があり、しのげるだろう。だが、下期の見通しが立てられない」と嘆く一方、「コロナの収束が来年にずれ込めば、大打撃を受ける」と警戒し、コロナ時代のビジネスモデルの模索を始める。
JISAの4~6月期DI値は、リーマンショックを超える過去最大の減少幅になったという。特に大幅に落ち込んだのが、受注ソフトウェアとソフトウェアプロダクトの2つ。受注ソフトウェアは前期比89ポイント減のマイナス43.8%、ソフトウェアプロダクトは同71ポイント減のマイナス33.3%にそれぞれ転落する。業種別では、製造業とサービス業の激減を予測する。
ただし、新型コロナの収束時期を予測するのは難しいので、業績への正確な影響は分からない。NTTデータの本間洋社長は5月12日の決算説明会で「合理的な算定をするのは難しい」とし、2020年度通期の見通しを未定とした。日鉄ソリューションズ(NSSOL)の森田宏之社長も4月28日の2019年度決算説明会で「下期は不透明で、通期は算定できない」とし、2020年度の予想は上期のみとした。大手で通期予想を公表しなかったのは2社になる。
一方、野村総合研究所(NRI)の此本臣吾会長兼社長は4月28日の決算説明会で「コロナは7〜8月に収束し、秋口から正常化に向かうことを想定して算出した」と前提条件を説明する。予想では、2020年度第1四半期は受注残のシステム構築・開発案件があり、大きな影響を受けない。コンサルティング事業は第2四半期に影響が出てくるが、第3四半期に回復してくる。運用についてはリーマンショック後と同様に大きな影響を受けないと読む。結果、2020年度の売上高は前期比2.1%増の5400億円、営業利益は同0.2%減の830億円とした。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の菊地哲社長も4月28日の決算説明会で「下期には普通に戻る」との前提で、売上高が前年度比2.7%増の5000億円、営業利益が同7%増の446億円と算出した。「第1四半期は前期の受注残があるが、第2四半期に苦しくなる。だが下期から忙しくなる」(菊地氏)。詳細に見ると、プラスとマイナスの要因がある。企業のIT投資抑制や案件の延期がある一方、テレワークなどオンライン需要の増加が期待できる。加えて、開発の生産性が向上し、交通費などの経費が下げる。
TISの安達雅彦副社長も5月12日の決算説明会で「第2四半期中に収束に向かい、経済活動が徐々に回復し、第3四半期から事業環境が正常化するとの仮定で算出。短期的にはIT投資抑制が強くなる」とし、2020年度の売上高は0.8%減の4400億円、営業利益は1.9%減の440億円の減収減益を予想する。SCSKの谷原徹社長も4月28日の決算説明会で「コロナの業績への影響は見通せない」と断った上で、2020年度の売上高は前年同期比1.8%減の3800億円、営業利益は同2.5%増の410億円と減収増益を計画する。日本ユニシスも「現時点で確度の高い業績予想を算出することが困難な状況であり、通期の予想のみとした」とし、2020年度の売上高は2.7%増の3200億円、営業利益は0.5%減260億円とした。
新型コロナによるパラダイムシフトが、新しい事業機会を作り出す可能性がある。特にテレワークを前提にする働き方になり、人とは可能な限り接触せず、国内外の出張も控える。そんなコロナ時代、コロナ後に求められるビジネスに関するシステム構築やコンサルティングも生まれる。
顧客との関係も変化する。例えば、顧客との打ち合わせや会議がテレワークになり、コミュニケーションの質的な課題が表面化してくるだろう。今はテレワーク環境への移行に全力を注いでいるが、移行後にさまざまな課題が出てくるのは間違いない。日本ユニシスは「足元の事業環境として、顧客のIT投資は基幹系の刷新など大型案件への投資が抑制される可能性があるほか、新規顧客を中心に提案活動が遅滞する影響や、サプライチェーンの影響による製品調達遅延リスクなどが考えられる。一方で、パラダイムシフトによるリモートワーク、AI(人工知能)/ロボットなどを活用したリモート作業、EC(電子商取引)ビジネスなど新たな需要も期待される」と見ている。
NRIの此本社長によれば、品質管理をより徹底することが重要になるという。オンラインは対面の会話と同じではないからだろう。IT投資に対する経営者らの意思決定に時間がかかることも予想される。その一方で、「無理に案件を取りにいかないこと」と、此本社長は安易な案件獲得が不採算を拡大させると指摘している。多くのIT企業がリーマンショック後に経験したことだ。「今はしのいで、新しいことに人も投資も振り向ける」。新しい時代に備えることだ。なお、各社の説明会はオンラインによるものになる。
社名 | 売上高(2019年度) | 売上高(2020年度予測) | 営業利益(2019年度) | 営業利益(2020年度予測) |
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NTTデータ | 2兆2668億円(4.8%) | 未定 | 1309億円(▲11.4%) | 未定 |
野村総合研究所 | 5288億円(5.5%) | 5400億円(2.1%) | 831億円(16.4%) | 830億円(▲0.2%) |
伊藤忠テクノソリューションズ | 4870億円(7.8%) | 5000億円(2.7%) | 358億円(10.0%) | 446億円(7.0%) |
TIS | 4437億円(5.5%) | 4400億円(▲0.8%) | 448億円(17.9%) | 440億円(▲1.9%) |
SCSK | 3870億円(7.9%) | 3800億円(▲1.8%) | 423億円(10.3%) | 410億円(2.5%) |
日本ユニシス | 3115億円(4.2%) | 3200億円(2.7%) | 261億円(26.8%) | 260億円(▲0.5%) |
日鉄ソリューションズ | 2748億円(7.7%) | 未定 | 283億円(11.8%) | 未定 |
上期1275億円(▲6.8%) | 上期127億円(▲10.5%) |
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。