オンライン新入社員研修の軌跡--凸版印刷が体現した「ピンチをチャンスに」

大場みのり (編集部)

2020-06-01 07:00

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、われわれの生活は見直され、結果としてさまざまな活動がオンライン化された。毎年、多くの企業で実施される新入社員研修もその1つだろう。だが、リモートでビジネスマナーや業務知識を一から教えるのは、容易ではないはずだ。

 この特集では、自社の新入社員研修を完全オンライン化した企業を前後編で取り上げる。企業の挑戦を振り返るとともに、その中で得られた気付きに迫りたい。前編では、印刷事業のほかITサービスの開発なども手がける、凸版印刷の取り組みを紹介する。

 凸版印刷では、4月1日~5月15日まで「全体研修」を実施。全体研修は、3つのグループ会社を含め、417人の新入社員を対象としている。当初、オンライン化するのは4月17日までの予定だったが、政府の緊急事態宣言を受け、5月7日まで延長した。その後、感染状況を踏まえ、5月15日までオンラインで実施。そして同18日、新入社員は各事業部に配属され、6月中旬頃まで配属先の担当者が原則オンラインで研修を行っている。

 元々は全ての新入社員研修を対面で行う予定だったが、感染の拡大を受けて3月2日、オンラインでの実施が決定された。その時の心情について、全体研修の企画を中心となって行った人事労政本部 人財開発センターの山田浩司氏は、次のように語る。「2019年12月から新入社員研修の準備をしてきた分、戸惑いを感じた。だが同時に、とにかくやるしかないという使命感を抱き、従来の常識を覆すような歴史に残る新入社員研修を作り上げようと決意した」

 また、大規模なオンライン新入社員研修を実施する中で得られた知見は、今後ソリューションとして外販することにもつながると考え、同社が擁する映像制作の専門部隊も総動員した。加えて今回、新入社員や教育を担当する先輩社員に自社のデジタル技術を体感してもらうことは、従来の研修や働き方を革新するチャンスになると感じたという。こうした思いのもと山田氏らは、1カ月でオンライン版のコンテンツを完成させ、3月末にはキッティング済みのiPadと通信容量無制限のモバイルWi-Fiルーターを全新入社員の自宅に配送した。

凸版印刷 人事労政本部 人財開発センターの山田浩司氏
凸版印刷 人事労政本部 人財開発センターの山田浩司氏

 今回の全体研修では、工場見学などの現場活動は中止にしたものの、それ以外はラーニング基盤「UMU(ユーム)」などを活用し、全てオンライン化した。講義は基本的に事前収録し、社長講話や行動指針などの映像コンテンツを13本、事業内容などを説明するスライド音声コンテンツを20本制作。そして、在宅勤務で懸念されるコミュニケーション不足や心身の健康を考慮し、新たな研修をプログラムに組み込んで習慣化した。

 例えば、新入社員約20人に1人の割合で「社員トレーナー」を配置し、新入社員が自分の趣味や特技などを話す「コミュニケーションワーク」をビデオ会議ツール「Zoom」を用いて班ごとに実施。当初は山田氏らが話のテーマを考えていたが、次第に新入社員の反応をじかに見ているトレーナーが「こんな企画をやってみてもいいですか」と提案し始め、各班独自の話題で盛り上がるようになったという。また元々は昼頃に20分ほど行っていたが、朝と夕方に設けられているオリエンテーションでも、コミュニケーションワークの時間を取るようになった。

 この他にも、昼食休憩後に各自の自宅近くを30分ほど散歩してもらう「ウォーキングワーク」も取り入れた。人が集まる所には行かないなど、感染予防を徹底して行ったという。実際、凸版印刷の新入社員4人に実施した取材では「最初は、毎日ウォーキングワークの時間が設けられていることに衝撃を受けたが、昼食後に散歩をすることでリフレッシュや眠気覚ましになった」という声があった。

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