本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、セールスフォース・ドットコム専務執行役員ビジネスオペレーション担当の伊藤孝氏と、日本マイクロソフト業務執行役員パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏の発言を紹介する。
「新サービスはパンデミックなどから企業を安全に再始動させる『従業員CRM』だ」
(セールスフォース・ドットコム専務執行役員ビジネスオペレーション担当の伊藤孝氏)
セールスフォース・ドットコム専務執行役員ビジネスオペレーション担当の伊藤孝氏
セールスフォース・ドットコムは先頃、企業が安全に事業を再始動するためのクラウドサービス群「Work.com」の提供を開始すると発表した。伊藤氏の冒頭の発言はオンライン形式で開いたその発表会見で、新サービスの内容を端的に説明したものである。
同社によると、Work.comはクラウド型統合CRM(顧客情報管理)プラットフォーム「Salesforce Customer 360」をベースに開発。そのため、従業員の健康チェック情報や各個人の勤務形態などの情報が、Work.comを活用することで統合された形で把握できることから、企業は安全に事業を再開することができるとしている。
さらに詳しい内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは伊藤氏の発言に注目したい。
冒頭の発言は、次のような話の流れから出てきた。同氏は会見でWork.comの内容の説明に入る前に、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的な流行)のような危機や災害を企業が乗り越えていくプロセスには、3つのステージによるロードマップに対応していく必要があると説明した。
3つのステージとは、まず「会社の安定化」、次に「事業の再始動」、そして「ビジネスの成長」である。
今回のコロナ危機の場合、ステージ1はオフィスの閉鎖やテレワーク、オンライン会議システムの導入といったデジタルシフトが急速に進んだ段階だ。そして、ステージ2ではウィズコロナの状況下で事業をいかに再始動するかが焦点となる。日本では今、この段階に入ってきているという認識のもと、同社はこの段階に有効なソリューションとなるWork.comを市場投入したわけだ。(図参照)
企業が危機や災害を乗り越えていくための3つのステージ(出典:セールスフォース・ドットコムの資料)
筆者が伊藤氏の冒頭の発言を取り上げたのは、とくに「従業員CRM」という表現に着目したからだ。CRMが代名詞の同社なので、「CRMの機能を従業員向けに適用したもの」という意味で分かりやすく説明したのだろう。だが、筆者はこの表現に、分かりやすい説明だけではない意図を感じた。
筆者が感じ取った意図とは、Work.comを皮切りに、Salesforce.comが従業員管理(Employee Management)、さらには人事管理(Human Capital Management)へと注力していくのではないかというものだ。Work.comのベースとなっているSalesforce Customer 360には、既にそうした要素も「エクスペリエンス」というキーワードのもとに取り揃えられている。
従業員管理を含めたHCMもCRMと同様、コロナの影響で改めて注目が集まっているホットな市場だ。Salesforce.comはかつてHCMベンダーを買収したこともあるが、改めて今輝いている有力なHCMベンダーを買収する日が来るのではないか、というのが筆者の見立てである。