内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

デジタル化への対応が企業の存続を左右する

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2020-08-19 06:00

 新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済への打撃はリーマンショック以上とも言われています。社会・経済を取り巻く環境が大きく変化する中、企業は生き残りをかけて自らを変えていかなければなりません。

デジタルに追従できず取り残されるリスク

 かつてグループ売上高3000億円で日本最大の老舗アパレル企業だったレナウン(東証1部上場)が2020年5月15日、東京地裁から民事再生手続き開始の決定を受け経営破綻しました。レナウンは百貨店で展開する高級紳士・婦人衣料品の販売が主力であり、百貨店の売り上げが全体の7割を占めていたということです。新型コロナウイルスの感染拡大で各地の百貨店が休業したことを受け、販売が急激に落ち込み、資金繰りが行き詰まったことから「初の大手コロナ倒産」と報道されましたが、コロナは最後の引き金に過ぎないと言われています。

 レナウンは、1974年にアパレル業界初の1000億円企業となった業界トップ企業でしたが、1990年代初めのバブル崩壊以降、業績は一貫して下降線をたどっており、2010年に中国企業の傘下に入っていました。この親会社の関係会社への売掛金未回収などの問題も原因と言われていますが、百貨店への過度な依存によって電子商取引(EC)など販売チャネルの開拓が進まなかったことで、じりじりと企業体力を失っていったことが背景にあると考えられます。

 ライバルの1つであるオンワードホールディングスによる2020年2月期のEC売上高は、前期比30.6%増の333億円であり、ECが全売上に占める比率は13%に達しており、百貨店離れを着実に進めています。一方、レナウンでのECの割合は売上比で3%ほどしかなく、競合に遠く及びません。ユニクロなどの大手アパレル企業では、物流倉庫に人工知能(AI)やロボティクス技術の導入を進めて効率性を高めていますが、レナウンはデジタル技術の導入でも後れを取っており、物流拠点の自動化が進まず、手作業での梱包や出荷が多く残っていたと言われています。

 言うまでもなく、デジタル技術を活用したり、EC比率と高めたりすることだけが、業績回復の手段というわけではありませんが、消費者のライフスタイルや購買行動の変化に適応して、自らの提供価値やビジネスモデルを変容させられなければ、今後はそれが致命傷となるということです。

 デジタルカメラの業界でも同様のことが起こっています。デジタルカメラの台頭によって銀塩写真フィルムの業界が消滅の危機を迎えた際に、この業界のグローバルリーダーであった米Kodakは破綻に追い込まれました。一方、富士フイルムは、高機能材料事業や医薬品、化粧品にも拡大したメディカル・ライフサイエンス事業へと軸足を移し、事業を多角化することで生き残りました。ビジネス環境の変化に適応して、自らを変容させ続けられる企業こそがデジタルの時代に生き残る企業といえるのではないでしょうか。

業界や企業規模によって差があるDXに対する意識

 デジタル技術の活用やビジネス変革への意識、先述のデジタルディスラプターの脅威に対する危機感は、企業の規模や所属する業界によって温度差があることは事実です。筆者が所属するITリサーチ会社のITRが2020年6月に行った「DX成熟度調査」では、500社以上の企業に対してDX(デジタル変革)に対する取り組み状況やDXに向けた社内の環境整備の実態を調査しています。

 その中で、「デジタル技術の活用や企業変革に対する意識」に関する10項目の設問への回答を企業規模別にスコア化しています(図1)。全ての項目において、企業規模が大きいほどスコアが高い傾向を示しており、経営者、事業部門、IT部門のあらゆるDX関係者がDXの重要性を認識しているという結果となっています。まだ、中小企業においては、DXの重要性や可能性が認識されていないことを表しています。

 業種業態によってもDXの意識には格差があります。特に、最終消費者を直接的な取引先とするBtoC企業、最終製品(完成品)やサービスをパートナー経由で提供するBtoBtoC企業、完成品メーカーや企業顧客を主な取引先とするBtoB企業といった取引対象のタイプによるビジネス形態によってDXの意識は異なります。これは、デジタルディスラプターの台頭が目に見える形で進んでいるのかどうかということと深い関係があります。

 Amazonのようなネット小売業の台頭が著しい百貨店などの小売業界では、売り上げの減少といった問題が現実となっているため、危機感が強い傾向にあります。一方、鉄鋼、繊維、化学などの素材製造業では、直接的なディスラプターが見えにくいため、自社にとってのDXの意義や必要性を見出しにくいという声が聞かれます。

 しかし、BtoB企業であっても顧客となる企業やその先の最終顧客の業界ではディスラプションが進行しているかもしれません。気が付いたら顧客の業界そのものが無くなってしまったり、自社が顧客に提供している価値が不要になってしまったりしているかもしれないのです。デジタル化の流れに無関係な業界はもはやないと考えるべきです。

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