ローコード開発の事例から業務部門の関わり方や開発スキルの育成方法を考察する

坂本毅 (クニエ)

2021-01-06 07:00

 第2回は、工数削減・開発生産性の向上に焦点を当て、ローコード開発により開発プロジェクトを成功に導いた3つの事例を紹介した。60%の工数削減を実現した事例もあり、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)や環境の変化に応じた新たなビジネス創出など、短期間でのシステム開発を求められる現在において、ローコード開発のメリットを十分理解いただけたのではないかと思う。

 今回は、ローコード開発を進める上での業務部門担当者の関わり方と内製での開発スキルの育成方法について3つの事例を取り上げ、開発プロジェクトを成功に導くポイントを考察する。

事例1:業務部門主導、2カ月で新規システムを完成

背景

 流通業界向けのソリューションプロバイダーD社の業務部門は、自社で開発した小売店向けシステムの拡販を検討していた。もともとこのシステムは、大規模な流通店舗向けに開発されたものであったため、機能は十分に兼ね備えている一方で、規模の異なる小売店向けには大きすぎるものであった。ヒアリングの結果、小売店の要望は、「販売食品の利益が簡単にわかり、値引きなどの販売戦略をスピーディに立てられるシステムがほしい」といった、既存の大規模システムに含まれる少数の機能でまかなえるものであり、余分な機能を排除した、より小回りが利く別のシステムを提供する必要があった。

ローコード開発採用の経緯

 D社の業務部門の担当者は、このような小回りが利くシステムを開発するための情報収集を行い、アジャイル開発、ローコード開発ツール「GeneXus」というキーワードを見つけた。そこで、GeneXusでローコード開発を行っているIT企業へ連絡し、検討を開始することにした。そして、ローコード開発を採用する決定打となったのは、新たに販売するシステムを検討する会議で、「実際に動く」プロトタイプがその場で作成されたことだった。D社の販売業務部門の担当者とIT企業の会議で、IT企業の担当者はD社の業務部門の担当者からシステムの概要をヒアリングすると、GeneXusを用い、すぐにそれに応じたプロトタイプを作成し動かして見せた。D社の担当者は画面を見ながらシステムを確認でき、よりイメージが湧きやすいことで、GeneXusを活用したシステムを開発する話が一気に進展した。

体制と開発の進め方

 体制は、D社の業務部門の担当者が要件を提示し、IT企業がシステムを開発し、セキュリティや技術的観点をD社の技術者がチェックする形態とした。要件をGeneXusに設計情報として落とし込み、「実際に動く」プロトタイプを作成するプロセスを繰り返すため、アジャイル開発による開発プロセスを経ることとなった。

 D社が開発したいシステムのイメージは既に固まっていたため、後はいかにそのイメージ通りにシステムを完成させるかが鍵であった。ここでも「実際に動く」プロトタイプを確認しながら進める手法は、大変有効であった。文字や文章ではなく、実際に画面を見ながら仕様を確認するため、業務部門の担当者は完成したシステムを想像しながら具体的なイメージを伝えることができた。これにより、要件を提示する側と開発する側の認識相違を防ぎ、後戻りを排除することができ、業務部門の担当者に大きな安心感をもたらした。

効果

 ローコード開発で進めた結果、「実際に動く」プロトタイプによる要件定義の早期実現と後戻りの抑止により、要件定義からリリースまでわずか2カ月で小売店向けの販売食品粗利管理システムは完成した。ローコード開発により、迅速に市場に新サービスを投入できた好事例である。

 リリース後も、システムの利用者が実際に使用した結果のフィードバックから、システムの改修を重ねた。GeneXusであれば改修も容易で短期間で済むため、より高品質なシステムを完成することができた。

事例2:営業支援部門だけで1年で24システムを開発

背景

 保険会社E社の営業支援部門は、営業最前線の目線で「サービス向上」に主眼を置き、営業課題やシステムニーズにスピード感を持って最適なシステムを提案、導入してきた。部門内に開発チームを立ち上げ、アジャイル開発を取り入れ、Microsoft Excelのマクロを活用し、既存のウェブシステムを自動制御し、代理店や営業の手作業を効率化するシステム群を開発してきた。そうした中、営業からの要望がさらに増加、多様化し、Excelのマクロでの開発に限界を感じ、新たなウェブシステムを検討するようになった。

 ウェブシステムを開発するために、これまで培ってきたアジャイルによるスピード開発を踏襲でき、なおかつExcelマクロ機能の知識があれば理解できる「Web Performer」によるローコード開発を採用した。

体制と開発の進め方

 体制は、営業支援部門1~2人である。業務部門が自ら開発を行う、いわゆるシチズンデベロッパーそのものである。

 具体的な開発の進め方は、まずは1~2時間の会議でユーザー要望やイメージを書き出してユーザーと認識を合わせ、それをもとに作成した画面をユーザーに触ってもらい、さらに細かい要望やニーズを引き出してからビジネスプロセスや機能を実装した。

効果

 ローコード開発により、1年で24システムを開発した。他部門からの要望も増え、現在では約90システムまで広がっている。ローコード開発を活用することで、業務支援部門が継続して業務効率化に貢献する好事例と言える。

課題と解決策

 システム開発を進めると、ユーザーから多数の開発要望が出てきた。これは、Web Performer上で実際の画面や機能を確認できることで、ユーザーが利用イメージを持ちやすく、要望を思いつきやすくなるためである。

 ローコード開発では、リリース後にシステムを改修するのは、とても容易である。よって、まずは早くシステムをリリースすることを優先し、リリース後に未反映の要望に対応する方針とした。結果として、ユーザーの要望に最大限応えることができている。

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