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山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国政府、高齢者に優しいネットサービス提供を指示

山谷剛史

2021-01-14 07:00

 中国では2020年4月時点で新型コロナウイルス感染症の拡大をITによって抑え込んだ。さまざまなソリューションを駆使したが、コロナ感染者と濃厚接触者のいた場所だけを隔離・消毒し、患者を治療するというもの。人が集まるショッピングセンターや駅、観光地などでは、SNSの微信(WeChat)やフィンテックの支付宝(Alipay)のミニプログラムで感染の可能性があるかないかを3色で示すQRコード「健康コード」を警備員に見せて、通行するようになった。

 また直接の対策方法ではないが、フードデリバリーやライブコマース、EC(電子商取引)サービスのニーズも高まった。中国の生活において、コロナ前よりもますますスマートフォンが生活に根付いた。またオンライン学習やリモート医療も発展し、利用者が増えた。詳しくは著書『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか』(星海社)に書いたのでそちらをご覧いただきたい。

 ところで、IT活用を徹底した合理的な対策で困るのがデジタルネイティブではなく、これまでネットサービスの利用に消極的だった高齢者だ。カルチャースクールで開講している高齢者向けのスマートフォン講座では、アフターコロナで受講者がだいぶ増えたと報じられている。「スマートフォンを使いこなさないといけない」、と一部の高齢者は危機感をもって受講し始めたそうだ。

 とはいえ、それはあくまで2億7000万人いるといわれるスマートフォン所有の高齢者の一部に過ぎない。中国の街中ではもはやほとんどフィーチャーフォンは売られておらず、多くの高齢者がスマートフォンは所有している。しかし、その用途はWeChatで家族や友人と写真を送りあったり、ニュースを見たりする程度だ。スマートフォンをまともに使えない高齢者は1億4000万人程度いるという統計もある。

 その対策として、中国政府(国務院)が高齢者にも優しい生活環境作りを目的とした「関于切実解決老年人運用智能技術困難的実施方案」を発表した。この方案を短く書くと、次のような状況の改善を求める内容が多く挙がっている。

  • チケット売り場では、アプリなどによるスマート対応だけでなく、有人受付や電話受付に対応する。有人のインフォメーションセンターはなくさない
  • オンライン医療の受診時に高齢者の家族による代理受付をできるようにする
  • 集合住宅が高齢者のみの家庭向けにネットサービスを利用できるようサポートする仕組みを作る
  • 高齢者でも簡単にタクシーなどが呼べる仕組みを作る

 中国では、高齢者のIT対応はこれまで若い家族がネット利用をサポートしていたが、政府が明確に高齢者などの弱者を意識した仕組みにするように指示をしたわけだ。

 加えて、情報産業省に当たる工業和信息化部(工信部)が、43のアプリと115のサイトに対して、高齢者など弱者に対応したシンプルなデザインや高齢者向けバージョンを用意するよう指示した。また非デジタルネイティブや視力/聴力障がい者向けの対応を求める一方、サービスの課金などを過度に誘導しないように求めている。工業和信息化部は今後、アプリやサイトが政府の要求する高齢者・弱者向けに提供されているかを審査し、サービス提供者に対して信用スコアの格付けを行うとのことだ。

 名指しされたアプリは、微信、微博(Weibo)、淘宝(Taobao)、美団(Meituan)、支付宝(Alipay)、抖音(中国向けTik Tok)、百度(Baidu)、百度地図、高徳地図などの、中国生活でなくてはならない定番アプリばかりだ。

 かつて情報端末の選択肢にスマートフォンがなくPCしかなかった頃、中国のサイトデザインのお作法として、ポータルサイトをはじめとしたニュースサイトでは小さなフォントでたくさんの情報を入れていた。そうした中で大手ネット企業が提供するポータルサイト「網易(NetEase)」は、アンチテーゼとばかりに文字サイズを大きくシンプルにしたサイトデザインに大きく転換したことがあった。これまでの中国の常識を破るものだったが、利用者からの支持を得られず、すぐに元のごちゃごちゃとしたデザインとなってしまった。しかし、今度は政府の方針であり、望むと望まざるとにかかわらず、企業は高齢者対応を進めることだろう。

 この政府通達は、「外国人に優しいデザインに」とは書いていない。しかし社会的弱者のために有人窓口をいろんな場所に残すよう政府は指示しているので、中国の各種アプリを入れていない外国人が現地で打つ手なく詰むということはなさそうだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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