トップインタビュー

「富士通が変わりだした」--福田CIOがDXで重視する体験の取り組み

國谷武史 (編集部)

2021-11-10 06:00

 富士通は、デジタル変革(DX)を目指す「 富士通トランスフォーメーション」プロジェクト(通称「フジトラ」)を推進中だ。そのキーパーソンである執行役員常務 CIO(最高情報責任者)兼CDXO補佐の福田譲氏に、取り組みのスタートから約1年が経過した現状などを尋ねた。

トップダウンとボトムアップの両立

 代表取締役社長 最高デジタル変革責任者(CDXO)の時田隆仁氏が「IT企業からDX企業への変革」を 表明したのは、2019年9月の経営方針説明会でのこと。2020年4月に福田氏がSAPジャパン社長から富士通に参画し、同年下期からフジトラにおける富士通内部を中心としたさまざまな変革の取り組みを担当している。

富士通 執行役員常務 CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐の福田譲氏
富士通 執行役員常務 CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐の福田譲氏

 フジトラのポイントは、「経営層のリーダーシップ」「現場が主役・全員参加」「カルチャーの変革」の3つ。「経営層のリーダーシップ」は、全社的な変革を遂行する上で組織トップが現場にかけ声をするだけでなくチームとして行動していくための姿勢を見せることを意味する。「現場が主役・全員参加」とは文字通りであり、仕事をする現場が変わる必要があり、トップも現場も一体で変革に取り組むというものになる。「カルチャーの変革」とは、変革の取り組みに終わりはなく、常に変革していることが当たり前の文化と体質になることを目指す。

 「経営層が現場報告で論評するのではなく、自分たちも考え汗をかいて動くトップファーストを実践するようにしている。トップの時田(社長)がまずやってみて徐々に広げていく」と福田氏。そして、約150人の「DX Designer」が各部門に伴走し、さまざまな新しい取り組みを支援する。さらに、変革での各種施策を推進する「DX Officer」が部門の内外で連携し活動している。

 2021年10月末時点で主だった変革のテーマは、「既存事業」「新規事業」「プロセスのリ・デザイン」「事業創出」「人を活かしあう制度・環境」の5つの領域で、約150に上る。3カ月ごとに評価、見直しなどを行い、取り組み自体を状況に応じて変えてもいる。「PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルではなくOODA(観察、判断、決定、行動)ループで取り組んでいる」とのことだ。

 これらテーマの中で、福田氏が「気合いを入れている」というのが、Microsoftの「Yammer」をプラットフォームにした社内SNSや「VOICEプログラム」になる。

 社内SNSは、グループ約13万人のうち10万人以上が参加するコミュニケーションの場であり、トップと現場を直接つなぐ。例えば、社内SNSにある「フジトラパーク」では、福田氏がパーソナリティーを務める社内ラジオを週次で公開。毎回経営層をゲストに招き、さまざまなメッセージを発信し、社員も自由にコメントを投稿している。開始当初にはほとんど社員からの反応がなかったというが、現在では「ゲストの役員の似顔絵を投稿してくれることもあるほど」(福田氏)とにぎわいを見せつつあるという。

 VOICEプログラムでは、こうしたコミュニケーションに加え、各種の変革の取り組み対する現場の声をQualtricsのアンケート機能などを使って可視化している。10月末時点で789プロジェクトにおける現場の意見や考えが公開されている。可視化される富士通自身の変革状況は、現場に「声を挙げたら変わる」という「体験」をもたらしていると福田氏は話す。

 例えば、富士通はテレワークを基本とし、オフィススペースを半減させるなどの「 ワークライフシフト」を掲げているが、これも意見を上げた約3万7000人の現場の声を基に決定した。「今後勤務したい場所は?」の問いに、オフィスや顧客先など従来の拠点を挙げたのは15%。85%は従来の拠点と自宅・サテライトオフィスなどを含む柔軟性を希望し、「新しい働き方に多くの声が挙げられので、大きく方向転換することができた」(福田氏)。話題になった「自転車通勤」の解禁も社員の声で制度を変更し、実現させた。

 10月上旬に発表した同社が今後注力する事業領域を定めた新ブランド「Fujitsu Uvance」の名称も、VOICEプログラムの中で実施した社員投票で決めたという。

 VOICEプログラムで可視化される変革の状況は、必ずしも良いものばかりではないという。例えば、「富士通が変化していると思う?」との質問に、回答者の3分の2が前向きな声を挙げたが、8%は「不十分」とした。回答者の感情の傾向を把握するセンチメント分析などを実施しているが、一人ひとりのコメントも重視しており、「『会社全体では変わったと思うが部署内ではさほど感じられない』『品質の取り組みは不十分』といった声から、まだまだ課題があることも分かる」と福田氏は述べる。

 現在さまざま企業が取り組むDXでは、キーワードの1つに「データドリブン」がある。データを手がかりとして変革につながるヒントや手立てなどを得て、実行につなげていくというものであり、同社のVOICEプログラムは、データドリブンを実現する1つの仕組みとも言える。その上で福田氏は、「最も大事なことは『エクスペリエンス』(体験)」と言い切る。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]