デジタルトランスフォーメーション(DX)の円滑な推進には環境整備と組織カルチャーの醸成が重要です。今回は、3年連続で実施している「DX成熟度調査」から、国内企業におけるDXに向けた環境整備の成熟度および実践の進展状況と、その背後にある組織カルチャーの適合度を紹介します。
DXの実践に関する取り組みの状況
ITRでは、従業員1000人以上の企業を対象として、国内企業におけるDXへの取り組み状況を2019年から3年連続で調査しています。DXへの取り組みは、具体的な施策を実行する実践部分と、推進するための環境整備の部分の大きく2つに分けられます。実践部分では、データやデジタル技術を活用した既存事業における業務の高度化や新規サービスの創出などに関する具体的な施策をプロジェクトなどによって遂行します。一方、環境整備は、企業内の組織、制度、人材などをDXが円滑に進むように変革するものです。
まずは、国内企業のDXの実践に関する取り組みの進展状況を見てみましょう。DXの実践では、注目すべき「働き方・組織運営の変革」「顧客関係・マーケティングの変革」「業務の革新・高度化」「新規事業創造やビジネスモデル変革」の4つの領域(参考記事)に加えて、社内アイデア公募や概念実証(PoC)の実施などを含む「DXに向けた活動」の5分野への取り組み状況をスコア化しています(図1)。
調査結果によると、これらの中では、「働き方・組織運営の変革」のスコアが最も高く、2年間の伸び率も大きくなっており、コロナ禍でのリモートワークなどの進展が後押ししていると考えられます。5分野の全ての領域において2021年が前年・前々年を上回っていますが、全体的にわずかな伸びにとどまっており、特に「新規事業創造やビジネスモデル変革」はほとんど進展していない状況がうかがえます。
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DXの環境整備の成熟度に関する進展
DXの推進においては、環境や整備されていなければDXの実践がうまく進まず、プロジェクトが停滞したり、活動が社内に広がっていかなかったりという問題を引き起こすことが多いため、これらを並行して進めなければならなりません。では次に、DXの環境整備に向けた企業内変革の進展度合いについて見てみましょう。
ITRでは、DX向けた環境整備に向けた企業内変革を意識、組織、制度、権限、人材の5つの分野で整理しており、全社的に環境が整備され、社内の誰もが意識することなくDXの実践的な取り組みが実施できる状態をレベル5とし、6段階の成熟度モデルを設定しています。ここでは、「意識および認識の変革」「組織体制の変革」「人材・スキルの変革」「制度の変革」「権限・プロセスの変革」の5つの分野にそれぞれ10個の質問を設け、それぞれの分野でのDXに向けた環境整備への取り組み状況の成熟度レベルを算出しています(図2左)。
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これを見ると5つの分野における前年・前々年の値と驚くほど一致しており、環境整備はほとんど進んでいない結果となりました。過去2年と同様に、5つの分野の中では「意識および認識の変革」に関する成熟度が最も高くレベル3に達しています。また、「組織体制の変革」および「人材・スキルの変革」は、レベル2と3の間に位置しています。一方、「制度の変革」「権限・プロセスの変革」の成熟度は低くレベル2程度にとどまっています。
そして、5つの分野の回答を全て積み上げた全般的な成熟度の分布においてもレベル5の企業がわずかながら増加傾向にあり、レベル0および1の企業が減少傾向にはあるものの全体的には大きな変化は見られず、依然としてレベル1から3の間に7割以上の企業が位置付けられています(図2右)。