2022年のビジネスとITシステムで注目すべき「コンポーザブル」

國谷武史 (編集部)

2021-12-27 07:00

 コロナ禍により多くの変化が生じる中、ビジネスやITシステムを要件に応じて“部品”を組み合わせるかのように作り上げていく「コンポーザブル」型の考え方が注目され始めた。Gartnerや複数のIT企業が「コンポーザブル」の必要性を提起している。

 コンポーザブルについては、Hewlett Packard Enterprise(HPE)が2015年に、ITシステムの「コンポーザブルアーキテクチャー」を打ち出し、これを取り入れた「HPE Synergy」を展開した。また、Application Programming Interface(API)ソリューションを手がけるセールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 執行役員 MuleSoft営業本部長の小山径氏も、各種システムやデータをAPIでつなぐ観点から以前からコンポーザブルを提唱してきたと説明する。

セールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 執行役員 MuleSoft営業本部長の小山径氏
セールスフォース・ドットコム MuleSoft Japan 執行役員 MuleSoft営業本部長の小山径氏

 ビジネス領域を含めてコンポーザブルがより広まりだした背景には、コロナ禍の影響がある。2020年のGartnerの講演によれば、コロナ禍で企業や組織が築いてきた多くのビジネスが“破壊”の危機に直面し、先行きの不透明さも増す中で、変化に対応し得る新たなビジネスモデルとプロセスを実現していく考え方が、ビジネス領域におけるコンポーザブルになる。

 小山氏は、「McKinseyの調査で、コロナ禍により企業の58%が2020年に“顧客とのつながり”においてデジタル化を推進し、2019年から22ポイント増加したことが判明した。企業はデジタル技術を具備しなければ、ビジネスを維持・成長させることが困難になってきている」と指摘する。

 基本的にITシステムは、ビジネス要件に基づいて選択したサーバーやストレージ、ネットワークなどの“部品”を組み合わせて構築される。その意味でコンポーザブルのコンセプトは、昔から当り前だったと言える。ただ、そうして作られるITシステムは、大がかりであったり頻繁だったりする変更などには向かないモノリシック(一枚岩)の性質を帯びるのが一般的だった。

 2010年代になると、クラウドコンピューティングの技術が台頭して、ハードウェアでしか実現できなかった機能がソフトウェアベースでも可能になるなど、各種の“部品”をより柔軟に選んだり組み合わせたりしやすくなった。ITシステムのモノリシックの性質は薄れ、変更しやすいものになっていく。そうした性質が「コンポーザブル」という言葉で、よりはっきりと表現されるようになったと言えるだろう。

 こうしたテクノロジーの変化に歩調を合わせるように、ビジネスも業種・業態などが異なる企業や組織が集まり連携して規模や内容を拡大させていく動きが加速する。テクノロジーの変化がこれを後押ししたという見方もできるが、両輪としての動きと見る方が正しいかもしれない。異なる企業や組織がビジネスにおいて連携する上で、それぞれが持つシステムやデータも連係させる必要があり、「コンポーザブル」がテクノロジーからビジネスにも広がり始めた。

ビジネスとITシステムアーキテクチャーの変化(セールスフォース・ドットコムの資料より)
ビジネスとITシステムアーキテクチャーの変化(セールスフォース・ドットコムの資料より)

 小山氏によれば、現在では業種・業界を問わず「コンポーザブル」のアプローチでビジネスやITシステムに取り組むケースが増えつつあるが、成熟度で見ると、「フィンテック」の形でいち早くその動きが広がった金融が進んでいるという。

 2010年代の半ばには、テクノロジーを活用して従来に見られない金融にまつわる新規ビジネスを展開するスタートアップが次々に出現し、大手銀行など伝統的企業のビジネスにも影響を及ぼすようになり、敵対関係ではなく相互連携の動きに乗り出した。その際にAPIを始めとする各種テクノロジーでシステムやデータをつなげ、さらに新しい形のビジネスモデルを創出し続けた。

 コロナ禍が起きる直前までは、「○○テック」を称される領域が徐々に広まっていた。だが、この流れが一気に加速した原因は先述したコロナ禍だ。好むとも好まざるとに関わらず、いつ何時、想像すらし難い変化が起きても、速やかに柔軟に対応可能なビジネスとITシステムを多くの企業や組織が必要とし、「コンポーザブル」はそのコンセプトになった。

 小山氏は、「コンポーザブル」によるITシステムの開発は、新規システムと既存システムの両面であり、同社の顧客例として前者では全日本空輸(ANA)、後者では三井ダイレクト損害保険を挙げる。いずれも目的には、新しい商品やサービスによる新しいビジネスの実現があり、システムやデータをつなぐ仕組みでAPIを活用する。コンポーザブル型のアプローチによって、顧客がITシステムのデリバリーを平均して3倍に速めていると話す。

 2022年は、少なくともコロナ禍の影響が続き、何かしらの突発的な変化が起きる可能性があるというのは間違いないだろう。「コンポーザブル」は、そうした際に対応し得るビジネスやITシステムを実現するキーワードして注目しておきたい。

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