編集部からのお知らせ
「サイバー防衛」動向の記事まとめ
「半導体動向」記事まとめ
山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国で話題だったネット互助保険「相互宝」が失敗した理由

山谷剛史

2022-01-13 07:00

 中国ネット最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)の金融企業である螞蟻集団(アントグループ)のネット互助保険「相互宝」(旧称、相互保)が2022年1月28日に終了する。2018年末にサービス提供が始まった同保険は、シンプルでありながら独自性があり、中国国内だけでなく日本のIT業界やFinTech業界からも注目された。多い時には1億人超が保険に加入し、サービス開始から現在までに約18万人が保険金を受け取ったという。

 サービス終了となった理由の一つは政府による規制強化である。保険業の認可や実店舗の運営が必要になったため、サービスの継続が難しくなった。政府が絶対的な存在の中国では、そうと決まれば、これまでサービスの良さを説いていたメディアも手のひらを返したようにその凋落を語り始める。とはいえ、メディアが報じる「凋落の理由」も無理やりなこじつけでない部分もある。そこで、なぜ中国のネット互助保険はダメになったのかという部分に焦点を当て、中国メディアの分析内容を紹介する。

 まずはネット互助保険について説明する。被保険者が保険金を請求すると、保険管理者は支払うべき保険金について調査機関に調査を委託。保険管理者はその調査結果を加入者らに発表し、加入者が費用を分担することで被保険者に保険金が支払われる仕組みになっている。毎月定額の保険料があるわけではなく、実際に支払われた保険金の総額に応じて、加入者らが分担金を保険料として支払う。アントの売り上げは支払う保険料に上乗せした8%の管理費であり、これは一般的な中国の保険会社の手数料(30%)よりずっと低い。

 加えて、相互宝では同社の信用スコア「芝麻信用」を活用している点も特徴の一つだ。当初は650点以上、その後改訂され600点以上のスコアを保有していることが加入条件となっている。650点というのは、勤務先や学歴、住居、公共料金の支払いなどの個人情報を登録し、アリババの電子商取引(EC)サイトなどを利用していれば獲得できる点数だ。つまり、個人情報をきちんと入力し、中国のネットサービスを割と積極的に使い、支払いの滞納などをしていなければ、中国人の誰もが相互宝を利用できるというわけだ。

 保険販売員による従来の保険販売が伸び悩んでいたところに、インターネットを活用した画期的な保険商品が登場。保険金を加入者で分担するというシンプルなルールで、何よりネットで話題になったことから一気に利用者を増やした。

 相互宝に続けとばかりに、他社もネット互助保険に参入している。百度(バイドゥ)の「灯火互助」、美団(メイトゥアン)の「美団互助」、滴滴(ディディ)の「点滴互助」、京東(ジンドン)の(京東互保)、蘇寧(スーニン)の「寧互保」などだ。ほかにも中小の保険が数十あったが、政府による規制強化によって続々と事業を畳んでいる。アントが2020年に発表した業界白書「2020年網絡互助行業白皮書」によれば、2019年時点で1億5000万人(複数の保険加入者も考慮)がネット互助保険に加入し、年間で計4億回、50億元超の保険金を支払ったという。

 相互宝は当初、大都市に住むテクノロジーに敏感な若者の間で流行った。まだ若いため保険金が必要になるような大きな病気になりにくく、初年度の保険負担金は29元で済んだ。ところが時間が経過するとサービスの利用者は拡大し、徐々に幅広い年齢層に浸透していった。その中には病気を心配して加入する人や、病気にかかるリスクの高い人も増えてくる。そうすると、保険金の請求件数が以前よりも格段に多くなる。2020年の負担額は90元に、2021年には160元に上昇した。

 一般的な保険商品よりも負担額ははるかに低いが、初年度と比べると値上がりした印象を持つことになる。当初、アントは「個人の年間配分は188元を上限とする」と宣言していたが、これを超える勢いになっていた。

 また相互宝には裁判員システムがあり、これも悪い方に影響したという意見もある。調査機関が「保険を適応する案件でない」とした場合に、保険の申請者が異議を申し立てられる。相互宝のサービスを利用して30日以上がたつ加入者が簡単なオンラインテストに合格すると裁判員になり、異議申し立てについて多数決で判断することができる。つまり加入者同士の裁判における衝突で利用者が減ったとも言われている。

 そして中国の各地域で、年100元以下で加入できる「惠民保」と呼ばれる安価な保険商品が台頭した。これも互助保険の存在への疑問に拍車をかけた。

 前述の2020年網絡互助行業白皮書によれば、2020年の段階でサービス利用者の72%が三線都市(中都市)以下の都市在住で、農村部の人々が3分の1、8割が年収10万元以下になっていた。病気になりやすい人がオンライン相互扶助に参加してコストを押し上げ、比較的健康な人々が去っていった。2020年の調査時点では1億370万人いたのが、2021年末には7500万人と約3000万人も減ってしまった。そして今、中国でのネット互助保険は一旦終了となる。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

特集

CIO

モバイル

セキュリティ

スペシャル

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. 開発

    日本のコンテナ/Kubernetes環境の本番活用が遅れる理由を2つの調査結果分析から考察

  2. 運用管理

    日本企業のDX推進に立ちはだかる「データ利活用」の壁─壁を乗り越えるための5つのステージを知る

  3. セキュリティ

    支払った身代金の平均額は約17万米ドル、復元できた割合は65% - ランサムウェア被害の現実

  4. ビジネスアプリケーション

    DXを妨げる3つの障壁を解消、内製化アプローチとIT基盤構築でDXを実現するベストプラクティス

  5. セキュリティ

    専門家 1264人への調査結果が示す、ランサムウェア攻撃による深刻な被害コストの実態

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNet Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]