対象者はジュニアひとり情シス、募集後すぐ満席
ひとり情シス協会が実施している2022年版の「ひとり情シス実態調査」では、中堅企業のひとり情シスの3分の1は「情シス経験3年未満」であることが判明しています。いわゆる「ジュニアひとり情シス」と呼ばれるレベルです。また従業員100人以下の中小企業では、1人目の情シスを任命することが増加している傾向も顕著になっています。
参加対象者を絞ることは集客上のリスクになる可能性もありますが、今回の講座は「経験3年未満のIT担当者」対象を明確にして告知を開始しました。対象となる企業規模も従業員300人までを一つのめどにしました。
「いつでも忙しく、会社を離れることが難しい中堅中小企業のIT担当者を集客することができるのだろうか」という不安もありましたが、開催の4カ月前に募集を開始したところ、直後に50人の定員に達しました。受講者の内訳では、51%が総務・経理系の管理部門担当者で、77%が情シス経験3年未満の方でした。これらの方々はおそらくコロナ禍で急きょ任命されたのだろうと想像できます。満員に達した後もキャンセル待ちが出るほどの盛況ぶりで、大阪府にとどまらず中京地区や中国地方などからの参加される方もいました。
1日に集約した内容
ひとり情シス大学の企画をスタートさせたのは5年前。「中堅中小企業のIT担当者が必要なスキルを身に付けられる教育の場」をコンセプトにしています。ひとり情シスは時間の確保が難しいため、多すぎるカリキュラムに参加するのは非現実的といった葛藤もありましたが、コロナ禍によるリモートワークの普及で参加方法の多様化といった環境変化もあり、1つ1つのカリキュラムをコンパクトにすることで実現させようと準備をしていました。しかし、部分的にテキストを完成させて単科科目の講義は実施できたものの、全てのカリキュラムの完成には至っていませんでした。

5章構成の講座カリキュラム
また必要な内容を1日に集約するのも無理があります。正味6時間しかありません。実践的で技術的な「あるあるトラブル事例」のみを説明することも考えましたが、実際にIT担当者が苦労するのは、業務内容に対する経営層との認識のズレといった対人関係の問題です。そこで、職務範囲の認識や勉強の仕方、担当者が持つスキルの背景などにより補強すべき知識など、IT分野とは少し離れた内容を午前中に充てました。特に最近は、経理・総務系や技術管理系の方が情シスの業務を兼任することも多く、状況によって補強すべき点は全く異なります。
午後は徹底して実務面を追求する内容で、頻発するトラブル事例の対応方法や、サイバーセキュリティ事件を検証しました。2022年に入り、中堅中小企業へのセキュリティ被害は容赦ありません。そのため、講座中は繰り返しセキュリティ対策への警鐘を鳴らし続けました。講座後に何人かの方とお話したのですが「翌日会社に出社したらすぐに確認することばかりです」とのコメントもあり、何か気持ちを動かすメッセージは与えられたようです。
(第2回につづく)

- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。