クラウドサービス市場をリードするAmazon Web Services(AWS)の牙城が今後、揺らぐことがあるとしたら何が要因になるか。その一つに、AWSが自ら手掛けていないSaaSの影響力拡大があるのではないか。そんな疑問をAWSにぶつけてみた。回答はいかに――。
自ら手掛けていないSaaSをAWSはどう見ているか
日本企業のITシステムにおけるクラウドサービス利用の比率は現在、3割程度と目されている。逆に言うと、これからまだ7割のポテンシャルがあると見ることができ、これまでにも増して激しい市場競争が繰り広げられそうだ。
とはいえ、ハイパースケールのクラウドプラットフォームを提供するベンダーは既に寡占状態にある。中でもAWSがこの分野をリードしてきたが、今後その牙城が揺らぐことがあるとしたら、SaaSの影響力拡大がその要因の一つとして考えられるのではないか。
SaaSの影響力拡大とは、クラウドサービスをこれから利用する企業がまずビジネスアプリケーションをクラウドで利用するSaaSを導入し、そこからさまざまな用途に広げていくために、導入したSaaSと同じクラウドプラットフォームを選ぶという動きを指す。そうなると、クラウドでプラットフォームもアプリケーションも提供しているハイパースケーラーであるMicrosoftやGoogle、Oracleが有利になる可能性がある。
写真1:AWSジャパン 執行役員パートナーアライアンス統括本部長の渡邉宗行氏
そんな折、AWSの日本法人アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)が先頃開催したパートナー企業向けの年次イベント「AWS Partner Summit Japan 2023」の基調講演で、SaaSに対する取り組みについて言及した(写真1)。
説明に立ったAWSジャパン 執行役員パートナーアライアンス統括本部長の渡邉宗行氏は、「DXに取り組むお客さまが、さまざまなアプリケーションを活用する上でそれらの内製化がおぼつかない場合、私たちのパートナー企業であるシステムインテグレーター(SIer)などが開発して提供するSaaSを目的に応じて適切に利用していただくことをお勧めしている」と述べた。
その渡邉氏に基調講演後、個別取材の機会を得たので、背景の話も含めて上記で述べた「SaaSの影響力拡大が今後、AWSの牙城を揺るがす可能性があるのではないか」との疑問について単刀直入に聞いてみた。すると、同氏は次のように答えた。
「SaaSには二つの種類があると考えている。一つはSaaSベンダーが標準サービスとして広く提供しているSaaS、もう一つはSIerなどがお客さまの要望に応じてAWSのようなクラウドプラットフォーム上で開発して提供するSaaSだ。背景としてクラウドサービスにはまだ7割の潜在需要があるとの話があったが、SaaSで言うとその多くは後者の需要だと私たちは見ている。AWSのクラウドプラットフォームではSIerなどがこれまで数多くのSaaSを開発し、多くのお客さまに使われている。今後もお客さまの要望に応じたSaaSを私たちのクラウドプラットフォームにおいてパートナー企業がどんどん生み出せるように支援していきたい」
上記の見方は、筆者にとっても新鮮だった。今後のクラウドサービスにおけるSaaS市場では、SaaSベンダーが標準サービスとして提供するSaaSよりも、SIerなどが顧客の要望に応じて開発し提供するSaaSの方が需要のポテンシャルが大きいと見ているわけだ。従って、前者を前提としたSaaSの影響力拡大は限定的な動きにとどまるというのが、同社の見解のようだ。