Oracleがマルチクラウドの推進に注力している。なぜなのか。クラウド市場を俯瞰(ふかん)しながら筆者なりに読み解きたい。
マルチクラウドに注力するOracleの野望とは
「私たちのマルチクラウドに対するアプローチは『オープンなマルチクラウド・エコシステム』。すなわち、あらゆる場所で使え、さまざまなクラウドと連携することで、お客さまにより多くの選択肢を提供したい。自社だけで全てを提供するというこれまでのスタイルから、クラウド事業では他社との連携によるエコシステムの構築に注力していく。しかも連携においては、まず当社のサービスを他社のクラウドで使えるようにしていくというオープンな動きを積極的に行っていきたい」
日本オラクル 常務執行役員クラウド事業統括の竹爪慎治氏は、同社が3月23日にオンラインで開いた「企業のマルチクラウド利用動向に関する調査結果」についての記者説明会でこう切り出した。同氏の冒頭の発言は、Oracleが2022年10月中旬に米国で開催した自社イベントで、同社 創業者で会長 兼 最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison(ラリー・エリソン)氏がマルチクラウドの推進に注力することを強調したスピーチをベースにしたものである(図1)。
図1:「オープンなマルチクラウド・エコシステム」への注力を強調するOracle創業者で会長 兼 CTOのLarry Ellison氏(出典:日本オラクルの会見資料)
調査結果の説明など会見内容は速報記事をご覧いただくとして、ここでは竹爪氏が会見の冒頭で調査結果のエッセンスとして示した図2の左側の円グラフを見ていただきたい。この調査の象徴的な結果として挙げられるのは、98%の企業がクラウド基盤(IaaS/PaaS)においてマルチクラウドを利用しているということだ。
図2:Oracleユーザーのマルチクラウド利用実態(出典:日本オラクルの会見資料)
この調査の対象企業はOracleユーザーが中心なので、同社にとっては貴重なユーザーの声だ。つまりは、ユーザーニーズとして同社はマルチクラウドを推進するしかないという調査結果であり、これがマルチクラウドに同社が注力しているオーソドックスな理由だ。
今回、この調査結果の記者説明会を開いたのも、マルチクラウドの推進に向けた同社の動機づけを明確にし、注力する強い意思を改めて示す意味があったと推察できる。折しも4月からは企業や行政において新年度を迎えるタイミングだ。マルチクラウドは竹爪氏が言う通り、ユーザーにとって「より多くの選択肢」となり、Oracleにとってはその中で確固たる存在感を示す格好のチャンスとなる。
ただ、Oracleがマルチクラウドに注力するのは、ビジネス戦略上の思惑もありそうだ。まず、同社はマルチクラウドを積極的に推進することで存在感をどのように示そうとしているのか。クラウド基盤についてはAmazon Web Services(AWS)とMicrosoftのサービスが先行し、とりわけ日本市場では二大勢力と目されている。従って、後発のOracleはこの二大勢力に対抗するより“共生”しようということで打って出たのが、マルチクラウドの推進だ。
とはいえ、AWSやMicrosoftからすると、Oracleと連携するメリットがないとマルチクラウドパートナーになる意味はない。そのメリットとは何か。それは、Oracleのクラウド基盤である「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)には大手企業を中心としたエンタープライズユーザーの多くが利用している「Oracle Database」が組み込まれていることだ。これにより、Oracleユーザーを新規顧客として迎え入れることができるようになるわけだ。
一方、Oracleの狙いはどこにあるのか。上記と同様にマルチクラウドパートナーのユーザーを新規顧客として迎え入れられるとともに、マルチクラウドで使用されるデータをOracle Databaseで一元管理できれば、つまりは「データ管理の元締め役」を担えるようになる。これこそが、マルチクラウドに注力するOracleの野望である。
この野望については、日本オラクルが今回に先立って2022年11月に、マルチクラウドへの注力について説明した会見での話から、2022年11月17日掲載の本連載記事「オラクルのマルチクラウド戦略が奏功するカギは何か」で解説しているので参照していただきたい。