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NRIが取り組む、ソフト開発における生成AI活用の狙い

田中克己

2024-06-21 07:00

 野村総合研究所(NRI)が生成AIを活用したソフトウェア開発の生産革新を推し進めている。2023年度に、どの程度の効率化を図れるのかを実プロジェクトで実証したところ、テスト工程が最大85%、コーディング工程が最大40%の生産性向上を実現できたという。

NRI 稲貴彦氏
NRI 稲葉貴彦氏

 生産革新センター 副センター長 兼 AIソリューション推進部長を務める経営役の稲葉貴彦氏によると、現在Microsoftの「Azure OpenAI」などビッグテックや国内外のスタートアップの生成AIを実際に使いながら、それらにどのような特徴があり、どのような業務で使えるのか、活用方法を検証しているところだという。

 2023年度に実施したのは、小規模で比較的簡単なテストやコーディングを自動化したもの。つまり、特定の中小規模システムにおけるテストとコーディングで生産性を上げられるが、人が判断し開発やテストを行う大規模システム開発への適用は先のことだという。

NRIのAIを活用した生産革新への取り組み(提供:野村総合研究所)
NRIのAIを活用した生産革新への取り組み(提供:野村総合研究所)

 複数のエンジニアが関与する大規模システムの開発では全体をマネジメントし、例えば品質の担保までどのようなテストを何回実施すればいいのか、といったことを確立する必要があるため、稲葉氏は「もう一段進まないと、抜本的な生産性の効率は今の段階では難しい」という。

 しかし、同氏は「そんなに時間はかからないだろう」と、AI技術の急速な進歩が大規模システム開発の生産性を大きく向上させる日はそう遠くないと話す。「1年ではないが、数年以内だろう」と予想しているが、もちろん解決すべき課題が幾つかある。

 1つは、生成AIにNRIのノウハウを入れ込む方法だ。過去のシステム開発における膨大なドキュメントをAIに全て読み込ませるため、リソースを投入したとしても、今の段階ではコストに見合う効果を得られないという。「もっと簡単にできるようになると、飛躍的に生産性を上げられる」(稲葉氏)。事前学習や追加学習、さらにはファインチューニングなどの作業に時間がかかり過ぎるということだ。

 その一方、生成AIの適用範囲をコーディングとテストから広げていく。例えば、ユーザーの要望を聞いて設計に落とし込み、開発、テスト、さらには品質への全工程にAIを適用させる。各工程で教え込ませる内容は異なるため、そこにAIをどのように活用するのかが課題になる。要望の聞き方も千差万別で、熟練エンジニアの技術やノウハウをいかに覚えさせるかも課題だ。いずれにしろ難易度は高い。

 それでもAI活用を推進するのは、オーダーメイド型の生産性を上げることにあるという。そのために稲葉氏は、「国内外のパートナー企業と一緒に生産性を高める」とし、AI人材の育成とスキルアップを図り、パートナーを含めたAI活用力のレベルを高めていくとしている。パートナー企業とのAI活用などの情報共有も重要になる。

 NRIは2030年度に売り上げ1兆円、営業利益率20%の目標を打ち出している。2023年度の営業利益率は16.7%だったため、3.3ポイントの向上で目標を達成できることになる。同氏によると、実はAI活用によるソフト開発の生産性向上の寄与率はそれほど高くない。標準化や共通化、部品化、さらにプラットフォーム化の方が高いという。

 では、ソフト開発の生産性向上の目的はどこにあるのか。それは、開発のスピードが上がることで、より多くのシステムやアプリケーションの開発に取り組めること。加えて、システム化の範囲を広げられることだという。自動化すべき作業はまだまだある。稲葉氏は、「大規模システム開発の場合、AIだけでは解決できない。そのため、作り方などのノウハウがある当社にユーザーは依頼してくる」という。ユーザー企業がIT人材を継続的に採用することの難しさもある。そこに大規模システムの開発を経験し、ノウハウを蓄積してきたシステムインテグレーター(SIer)の存在価値があるということだろう。

 SIerは人月ビジネスからオファリングへ提案型ビジネスへの転換を推し進めている。稲葉氏によると「人月のソフト開発は価格破壊が起きる」ため、多くのSIerはそこを避けたいのだという。NRIはアウトソーシングとASPというストックビジネスを展開し続けてきたからこそ、高収益を持続しているのだろう。事実、NRIの1人当たりの営業利益である721万円は、TISやSCSKなど大手SIerの倍になる。

 今後、AIに最適化された新たな開発手法にも取り組むという。要件定義からリリースまでの工程に対してAIを使った効率化を図り、市場を広げていくことで、さらなる収益拡大を図る考えのようだ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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