BPMのメリットを感じているのは民間企業だけではない。日本のハローワークにあたる、オーストリアの経済労働省労働市場局(AMS)は、従業員4300人、首都ウイーンを含み9県100地区にオフィスを持つ就職斡旋機関だ。
他の先進国同様、高い失業率に悩まされているオーストリア政府は、求職者と求人の素早いマッチングを課題のひとつとした。同局でITを担当するHerbert Bohm氏は、顧客(求職者と求人企業)が主導のプロセス主導型へITシステムを変革させようと、2008年までの長期計画で挑んでいる。
同氏が率いるプロジェクトチームは、プロセス主導型のシステム実現にあたり、求職者と仕事のマッチング、求人企業のサポート、公共への情報提供の3つのプロセスを重視した。また、自分で求人情報を検索できるセルフサービス形式を増やし、システム側ではデータウェアハウス、スコアカード、シックスシグマなどの管理システムを強化している。
セルフサービスが機能するためには、求人情報、求職者情報の情報の質は非常に重要だ。就職斡旋は、求職者情報と求人情報のデータベースのマッチングといえ、2つのデータベースの間で各種アプリケーションが動いている。ここを高速にすることで、求職者が職に就くまでの期間(失業期間)を縮小できる。
実際、失業期間が長いほど再就職は難しくなるので、求職者のキャリアにとってこの期間が短いことは重要だ。もちろん、失業手当などの政府の出費を抑えることにもつながる。
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そのために同局は、まず組織再編から着手した。顧客とのチャネルを情報提供(コールセンター、セルフサービス、スペースの提供)、サービス提供(求人情報に応募などの手続き/サポート)、コンサルティング(長期求職者向け)の3段階(マルチチャネル)に分け、スタッフはこれまで以上に顧客に対面し、より深く関わるようにした。また、専門知識を持つスタッフを有効に活用できよう、適材適所に心かげて再配置している。
「組織改変などというと、従業員の間では解雇を気にする声も出てきて、いやな雰囲気がでてくる。われわれが何をやろうとしているのか、最終目標はなにか、どのような手順で行うのか、これらを短く紙にまとめたものを配布し、ビジョンの周知徹底に務めた」とBohm氏は語る。
システム側では、組織開発のためのガイドライン作成からスタート。同局では、失業手当てシステムですでにIDS ScheerのBPMプラットフォーム「ARIS Platform」を導入していたことから、ARISを使って全体のBPMを行うことにした。
このシステムでは、2000年にコアプロセスのモデル定義からスタートし、現在、コアプロセス、サポートプロセス、運行ステップ、アクティビティ、アクションの定義、詳細レベルでのIT要件定義などを終えている。BPMの実装は、「ワークフローを円滑にし、紙の利用が削減、必要な従業員の再定義、アプリケーション間のデータ重複の削減、推進してきたマルチチャネル戦略の強化などのメリットをもたらした」とBohm氏は言う。
プロジェクトでは、顧客の問題解決、プロセス主導を念頭に、顧客の細かなセグメントに対応することを目指した。実際、すでに効果は現れている。生産性は向上し、同じ従業員数で、求職者数も大きく変化していないが、求職者と求人側のマッチング活動は1999年の2倍以上に増えている。
課題のひとつとなっていた長期失業者数は減り、顧客の満足度、従業員の満足度は改善したという。「BPMにより、組織全体レベルで責任の所在が明確になったことも、生産性改善につながった」とBohm氏は話している。
同氏は、「成功のかぎは、人と技術インフラ」と言う。“上層部のコミットは不可欠”というのはBPMではよくいわれているが、AMSは従業員全員に対するケアを重視していることが印象的な事例といえる。Bohm氏は、上層部のコミット以上に下位レベルのサポートを重視し、「先走りしすぎない」とアドバイスする。また、必要に応じて外部の専門家を利用し、社内の専門家とのバランスをとることも重要だとしている。
2006年1月時点、同国の失業率は5.1%、EU25カ国の平均値8.4%を下回り、低い順からトップグループに入った。現在の目標はトップ3に入ること。具体的には、25歳以下の若者と45歳以上の中高齢者の雇用増、女性の再就職、長期失業者の削減を目標に掲げている。