Oracle OpenWorld Asia Pacific 2007最終日、最初の基調講演は日立執行役常務 情報・通信グループ サービス・グローバル部門CEOの山口光雄氏によるものだった。同氏は「現実世界とITの知見を融合させた新しい知見の価値が重要」と唱える。
同氏のいう「融合」を実現するためには、いかにしてビジネスの実地から情報を収集し、蓄積し、抽出し、評価し、最終的に実地にフィードバックするというステップそれぞれが重要となる。そこで同社ではユビキタス、ストレージ、コラボレーション、プロセスという4つのインフラストラクチャーの開発を進め、それぞれのステップに当てはめている。
ユビキタスではRFIDや静脈認証、ストレージではUniversal Storage Platform V、コラボレーションではCosminexus、プロセスではBlade Symphonyを活用している。特にユビキタス分野で日立は、μチップの活用においてOracleと強固な協業関係にある。
そもそも両社は、データベースやビジネスアプリケーションの分野で長らく協業している。RFIDにおける協業については日本でのOracle Worldで日立のRFIDを使った入場券を利用したのが最初だ。これが、日立のμチップとOracleのR-Ticketミドルウェアを組み合わせた来場者管理ソリューションのはしりとなる。
これ以降、両社は様々な場面でこのパートナーシップを活用していく。例えば、上海におけるニューイヤー・カウントダウン・イベントではこのソリューションにより7000枚のうち3000枚の偽造チケットを摘発するなどしている。
今後はERPなどとも結びつけて新しいシステムをつくっていきたいとする両社、中国における活動では、もちろん、北京オリンピックも視野に入れる。「一日に100万人とも言われる来場者の入退場や食事などをさばくひつようがある。ERPなども結びつけて自動化ができるシステムを構築していく必要がある。愛知万博においてμチップ付きチケット2500万枚を発行したノウハウを活かせれば」(同氏)。
RFIDというと、小売業での在庫調整をはじめとしてBtoB市場での活用が目立つ。しかし、両社はBtoC市場への適用を積極的に行う。
日立によれば、まさにここがOracleとのパートナーシップの鍵だという。「エンドユーザー、消費者のニーズに合わせてやっていこうというOracleの視点が協業の鍵となった。これまで消費者を置き去りにしてきたためにプライバシーの問題などが騒がれている。また、ウォルマートなどがやっているのは小売りベース。ほかの業界には受け入れにくい面もある。我々の協業をもとにしたソリューションでは企業や業界、国をまたがった広がりを持たせたい」(日立 理事 事業主管、東京大学教授 井村亮氏)。ともにグローバル企業という点もこの協業の強みだ。
この「広がり」も、もうひとつの鍵だ。日立ではOracleとの協業で培ったノウハウを様々な場面で活かしていきたいとしている。上述のオリンピックにおいて、仮に日立とOracleの技術が採用されたとしても、インテグレーションおよびインプリメンテーションは中国の企業が請け負うことになるだろう。このような場合でもノウハウの提供は積極的に行なっていく意向だ。μチップを中心とした、ユビキタスソリューションの巨大なエコシステム構築が目的というところか。日立側としては、「総合電機メーカーとして日立が持つカスタマーベースやノウハウをOracleと共有できれば」(山口氏)という考えもある。