Oracleには、アジアパシフィック地域に7つの研究開発センターがある。アジア開発センターのジェネラルマネージャーとして、技術開発と運営全般の責任を持つ同社バイスプレジデントのPascal Sero氏は、複数の研究開発拠点でのナレッジ共有に課題があったと話す。重複作業をいかにして防ぐのか、異なる文化的背景を持つメンバーから新しいアイデアを引き出すにはどうしたらいいのか。そのためには、「柔軟性の高い方策が必要だった」と、ZDNet Japan主催のイベント「ZDNet Japan Social Technology Conference 2008」にて同氏は語った。
Sero氏がこうした課題解決の方策として注目したのが、Web 2.0的なコミュニケーション手段だ。つまり、SNSやブログ、Wiki、メッセンジャーなどの活用である。しかし、既存の技術は企業で利用するには不都合があった。そこでOracleでは、企業の研究開発という特殊な環境でも活用できる、新たなコミュニケーション方法を模索している。
セキュリティの確保と多様な言語、文化への対応
研究開発業務では、情報の機密を守ることが強く求められる。Oracleの企業ルールやコンプライアンスはもちろん、法律などの規制もあり、それらをきちんと守れるコラボレーション方法でなければならない。「業務はステルス型で進められる。社内にさえ知らせない情報もたくさんあるのだ」とSero氏は言う。
もう1つ解決すべき要素が、多言語および多文化への対応だ。異なる言語や文化のメンバーが効率的にコラボレーションすることは難しい。Oracleの研究開発部門のメンバーは、基本的には英語で会話できるとはいえ、英語が母国語でなく話すよりも読み書きのほうがやりやすいメンバーも多い。さらに、時差や地理的な距離もあり、直接会話する機会が少ないというのが現状だ。
これらの課題解決策として、ブログやWikiを中心としたコラボレーション環境が構築された。単にブログやWikiのサーバを立ち上げるだけでなく、シングルサインオンを実現し、ユーザーアクセス管理機能を加え、詳細なID管理を実現。さらに、セキュアコンテンツマネジメント、バージョンコントロールとロールバック、セキュアエンタープライズサーチ、既存のITソリューションへのコネクタといった機能も加えていった。
「企業における利用では、Facebookのようなソーシャルメディア機能だけでは不十分。ERPやCRMから情報を抽出する機能も欲しいし、セキュアサーチやコンテンツマネジメント機能も必要だ」(Sero氏)
Oracleが自ら手を加えたこの仕組みを導入したことで、まずは社内におけるブログの利用が急速に伸びた。研究開発センターでは2008年6月現在650のブログが開設されており、ブログ開設から同時期までの総ページビューは480万を超える。そして、これまでに蓄積された総情報量は136.58Gバイトにも至った。こうした情報の活用で、2007年9月から2008年6月の期間にストレージ、印刷、通信、技術サポートなどさまざまな面でコスト削減が実現し、その合計は249万ドルに上るという。