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個別最適と全体最適をどう調整したのか
このアプリケーション開発については、直接のユーザーである放射線部の要望を取り入れている。いわば個別最適の考え方だ。一方で、ハードウェアについては全体最適を第一に掲げている。この個別最適と全体最適の調整も、今回のシステム刷新の大きな課題になった。
静岡県立総合病院は2009年4月に独立行政法人化、県立こころの医療センター、県立こども病院とともに地方独立行政法人静岡県立病院機構による運営に移行することが決まっている。つまり、同病院にとっては、これまでのような個別の要求に対応する個別最適化に加え、全体最適が緊急のテーマとなっている。これを担う医療情報室にとっては、今回のストレージシステム導入はまさに4月からのシステム全体最適化への格好のモデルとなった。
岩井氏も「今回は、個別最適から全体最適にという考え方を取り入れるひとつのモデルケースとなりました」という。
今回のシステムは、ハードウェアとしてのLTSによるアーカイブの部分とSTSのアプリケーションのサーバ群、さらにシーメンス製品のような薬事法で登録されている医療機器に分けて考えることができる。アプリケーションや医療機器は薬事登録製品であり、これについては放射線部が選定している。個別最適の例である。医療現場はどうしても個別最適への要求が強いからだ。
「アプリケーションについては、自分の考え方を変えたくないという要求が当然出てきます。事務方が押しつけると、使われないシステムができてしまうわけです。その部分では個別最適で、彼らがいうままのシステムを導入しようと考えました。しかしこれが載るハードウェアに関しては個別最適ではなく全体最適の考え方を取っています。今後もハードウェアに対しては全体最適を行っていく考えで、そこには仮想化というようなキーワードも入っています」(岩井氏)
つまり医療情報室は、アプリケーションについてはあえて全体最適を選ぶか個別最適を選ぶか、放射線部に“下駄を預けた”ということになる。放射線部からは当然のように個別最適の考え方が出てきた。それを十分考慮しながら、医療情報室は対応を行った。
「ハードウェアの部分はこちら側で、アプリケーションと薬事登録製品については、放射線部で、それぞれの部署に中心になる担当者とベンダーを割り当て、責任範囲を明確にしました。つまり、分業がうまくいったのですんなりと入ったのだと思っています。医療現場という特殊性がありますので、両方考えなくてはならないという事情があります」(岩井氏)
ややもすると、病院では医療のエンジニアとコンピュータのエンジニアの対決になってしまうという。医療情報室と放射線部は、それをうまく調整したことになる。
ネットワークも増強
導入してまだ数カ月だが、ハードウェア的なトラブルは皆無だという。むしろ、効果がいくつか出てきている。ひとつは、読影時のオリジナル画像の表示速度が速くなったという評価。画像参照の仕組みを変えたことが大きいが、今回は将来の完全フィルムレス化に向け、老朽化したネットワークを6月に合わせて増強・更新しており、それが評価を押し上げている。
「ネットワークは末端まで1Gbps、幹線は10Gbps以上にしました。また無停電電源装置(UPS)を入れて瞬電、瞬停にも耐えられるシステムにしました。当病院は災害時の指定病院であり、災害時にも確実に動きが取れるフィルムレスを考える必要があったからです」(岩井氏)
これは、ストレージ基盤の整備に合わせた全体最適の一例である。今回、完全フィルムレス化に向けて大幅なシステム刷新をしており、コストもストレージなどのハードウェアコストより、ネットワーク増強・更新のコストの方が高かったという。