前回(BIで幸せになるのは経営者だけじゃない!--MSが考える「戦略実現ツール」の理想型とは)は、企業パフォーマンスに重大な影響を及ぼす「戦略」と「遂行」の分断を、ITでいかに解消できるかについて、マイクロソフトの議論をもとに見た。
今回は、戦略と実行のサイクルを回していく時に、重要なブレークスルーとなるのではないかと思われるSAPの新しいツール「SAP BusinessObjects Explorer (以下、SAP BO Explorer) 」を取材した。
「業務系」と「情報系」の橋渡しに必要だったこと
ご存じのように、SAPはERPなど業務系システム(実行系)のトップランナーであるが、近年は、BIなどの情報系システム(戦略系)の領域にも進出し、業務系と情報系の統合に取り組んできた。
これを経営管理サイクル的に言い換えれば、「現場の実行系の正確なデータを、戦略系に吸い上げて「見える化」し、戦略を立案して、それを現場の実行系へシームレスに渡せる仕組みを作り上げようと取り組んできた」ということになる。
専業のBIベンダーの場合、もともと戦略系は得意なのだが、戦略による指示を実行系に渡すために、実行系にその機能を埋め込もうとしても上手くいかないケースが多かった。SAPの場合も「SAP NetWeaver Business Warehouse(以下、SAP NetWeaver BW)」というBIツールを提供したが、戦略を実行系にシームレスに渡すところまでは実現していなかったという。
「戦略を立案する人、それを実行する人を、階層で分けて考えていると、本当にシームレスな戦略と実行の“Closed-Loop(閉じた輪)”はできないのではないか」と指摘するのは、SAPジャパン、BIP事業開発部部長の塚本眞一氏である。同氏はSAPの新しいBIツール「SAP BO Explorer」のビジネス責任者だ。
既に報道されているように、SAP BO Explorerとは、経営者や現場のビジネスユーザーが、データを簡単に見つけ出し、分析できるようにすることで、導出された洞察を現場に戻したり、現場の洞察を実行に活かしたりできるツールである(関連記事:双方向でデータを“探究”--SAPジャパン、BIフロントツール新製品を発表)。つまり、組織としての階層を意識する必要のないツールと言える。このツールは、どんな特徴を持っているのか見てみよう。
従来の情報系ツールが持っていた弱点の1つが、「膨大なデータの中の、どこに必要なデータがあるか分からない」ことにあった。SAP BO Explorerは、検索エンジンを備えており、組織内のデータを自然言語で高速に検出できる。検索結果から、適合率の高いデータを用いて、分析を行うといった使い方ができる。いわば、企業内検索ツールとBIツールを合成したようなツールである。
塚本氏は、次のようなデモを見せてくれた。
収益低下のアラートを受けた担当者はまず、国別に収益を表示する。すると、米国のパソコンでの収益が低いことが分かった。そこで、「アメリカ パソコン 収益 利益率」をキーワードに検索を行い分析していった結果、中国の工場での材料費の高騰がアメリカ全体の利益率に影響を与えていることが分かったのである。業務を知っている人であれば、キーワードによる検索を行うことで、実に簡単に次に打つべき手段の根拠となる情報を得られるのだ。
また、例えば3億件のレコードを集めるのに1秒以内と、非常に高速である点も特徴だ。キャッシュやインメモリデータベースなど、高速化のための技術を用いてこのスピードを実現している。
塚本氏は、「ダッシュボードで気になるデータを見つけたとき、その情報についてPC上で思いつくままに、次々と軸を変えながら関連する情報をたどれる。誰でも直感的に使え、人間の思考を止めないインタラクティブ性と高速なレスポンスを実現した」とする。