従業員こそが企業そのもの--企業価値最大化につながる人財価値最大化 - (page 2)

斎藤和宣(ディーバ)

2009-10-14 08:00

人財を表現する

 では、具体的に人財はどのように測定すればよいのだろうか。人財は企業にとって貴重な財産であり、将来のキャッシュ獲得の源泉となるものだ。しかし、現在世界で利用されている会計基準でも、その計測、表現は不十分なままだ。

 人財が活きることによって生み出される成果は、キャッシュフロー(C/F)、あるいは損益計算書(P/L)として財務諸表に表れてきてはいるものの、人財そのものがどういう状況になっているのか、また成果獲得につながっているのかなどは分からないのである。そこで、少なくとも経営に利用できるレベルで、加えて誤解なく利害関係者への開示ができるような測定、表現としては、どのような方法が考えられるだろうか。

  • 案1
     まず、複式簿記の原則である「借方・貸方」という概念の中で整理するとすれば、たとえば、測定時点の年間報酬総額などを基礎に表現することも可能ではないだろうか。
     その際には貸借とも同額で認識することになるが、それは企業への資本の提供という意味での貸方への計上であり、資産として将来キャッシュフローを創出するという意味での借方への計上を意味している。それぞれの企業グループが、経営管理目的でのみ利用するのであれば、ある程度の有用性はあると考えるが、他社との比較可能性や、他の資産との整合性を考えると、不完全な部分もあるだろう。
  • 案2
     まったく別の発想として、たとえば、借方・貸方の世界を超えた第3軸での測定、表現はできないだろうか。
     企業は“ヒト・モノ・カネ”で説明されることがある。細かい点は無視して乱暴に解釈すると、モノは借方で、カネは貸方で表現することとすれば、現在のモノ・カネを表現している2軸から、ヒトを加えた3軸での可能性があるのではと考えている。ただし、企業グループにあるモノやカネは、決して従業員だけで形作っているわけではないため、従業員を中心とした人財だけではなく、社外の人財価値と足し合わせることで、その第3軸は現在の借方・貸方とバランスする関係で整理できるのではないだろうか。
  • 案3
     また、金額で測定することは難しいことから、従業員の属性やスキル特性で整理した人員数を認識し、かつ開示することだけでも有用なのかもしれない。
     たとえば、弊社であれば担当技術別の開発担当者数や、導入コンサルタントの人数などになると思われる。ただし、セグメント情報等の開示基準で採用されているマネジメントアプローチの議論の中であったのと同様に、競合他社に戦略情報を示すことになる弊害は留意しなければならない。

 人財の測定・表現方法は、まだ案1や案2のように容易に答えが出せる状況ではないが、近い将来チャレンジしてみる価値はあると考えている。おそらく前述以外の有用な考え方もあるだろう。

 人財価値を正しく認識し最大化することは経営にとって必要なことではあるが、そのこと自体が目的ではないことも認識しなければならない。つまり、どんなに価値のある人財を備えていても、そこから適切なキャッシュを生み出すような経営をしない限り意味がないのであり(人財価値最大化≠企業価値最大化)、そのために必要なポイントを前回までに述べてきたつもりである。

 とにかく、企業グループとして人財を持っているだけではなく、人財を活かすことこそが肝要であり、そのこと自体が別の視点から見た連結経営そのものだと感じている。

筆者紹介

斎藤和宣(SAITO Kazunobu)

株式会社ディーバビジネスソリューションユニット第2クループ長。公認会計士。1968年生まれ。1992年慶應義塾大学経済学部卒。青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)を経て、2002年ディーバへ入社。大企業の連結経営会計にかかわるコンサルティングや、会計システム導入のプロジェクトマネジメントを多数手がけ、現職にいたる。

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