「そうなんです、部長。そこなんです。以前、人を育てるのは、むしろ仕事の設計をきちんとした方がいいと申し上げたこと、覚えていますか? それは、ここで言っていることなんです」
「あぁ、なるほどねぇ…」
日本のIT部門は多能工
「前回申し上げたんですが、技術は分散と統合をして進化していきます。ということは、技術を担当する人間は“分散”しておかれる必要があるんですね。でも、それだけだと単にバラバラな仕組みをバラバラに運営することとなるので、“戦略~計画~調達~実行~運営管理”というサイクルなど、そういうところには“統合”された担当を置き、バランスを取っていくことも、組織として運営を円滑化するために一方で必要なんですね」
「…………」
「欧米企業では、10人くらいの“専門家”がやることを、日本では1人でこなそうとしている。そういったことをわかってやっているのであれば、それなりに工夫をして、賢い組織を運営することになるんでしょうが、多くの日本企業ではわかっていない」
「う~む」
「単に一生懸命やっているから、どうしても穴が生じる。あるいはシンプルに“外部化”ってことをやるから、大切なものを残さずに外出ししてしまうので、ベンダーがコントロールできなくなることの方が多い。そして、人材育成は……。それはね…育たないですよ。あたかも、必要な仕事の中身をよく考えないで、向き不向きもよく考えずに、全員をCIOにしようとしているようなもんですから」
「そうだねぇ……何か、ちょっと傷ついてしまうなぁ……今の話は」
プロセス技術部門に近づくIT部門
「当然、欧米企業でも“細かいことが苦手だけど企画が得意な人”もいれば、“コツコツと仕事をするのが得意な人”ってのもいるんですね。細かいことが苦手だけど企画が得意な人っていうのは欧米企業の場合、Architect的なService開発やRelationship Managerなどの現代のDelivery Modelで真ん中に位置する役割を担うんですね」
「なるほど」
「一方、コツコツと仕事をするのが得意な人っていうのは、Database AdministratorとかIT Asset Managementなど、非常に重要だけど、継続性や正確性が重要な意味を持つ仕事を担当することが多いんですね。すなわち、現代のITが求めるデリバリモデルを成立させるように、細分化すべきところは細分化し、統合化すべきところは統合化するようにして、組織をモダンにしているんです」
「う~ん」
「Service化というのは、何もSOAというアプリケーションの作り方だけの世界の話ではないんです。企業経営におけるIT部門の存在の仕方にも大きな転換を求めるものなんです。言い方を変えると、製造業には製品開発部門と、生産技術部門がありますよね。欧米企業では、IT部門はこの生産技術部門に近い役割を果たすように移ってきています。プロセス技術部門って言うといいんですかね……実際、いくつかの欧米企業では、IT部門のことを“Business Technology”と呼ぶようになっています」
「へぇ~」
「すなわち、自分で研究し、企画し、作り、提供し、回収する部門に変わってきています。これが、クラウドレディネスができている状態です」
「あぁ…そういう状態、理想だねぇ。IT部門の社員の士気も上がるねぇ。そういう状態になっていると」
(続きは7月7日に掲載予定)
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宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。