ストーリーで考えるIT戦略の本質(1/5)
これまで“情報システム部長”との会話を通して、日本企業が抱えるIT上の課題を概観し、今後の目指すべきITやIT部門の方向性を議論してきた。いよいよ部長との会話も今回で最後を迎える。最後は、その方向性を実現するには「IT戦略」が必要だということを部長とともに考えたいと思う。
自分で言うのも気が引けるが、おそらく筆者は、IT戦略の立案数に関しては日本でも結構な数をこなしている方だと思う。多い年には10件、少ない年でも5件程度をこなしている。当たり前だが、IT戦略というものは本当に各社各様である。
戦略という言葉を聞いて、どういうことを皆さんは想像するだろうか。夜の新橋に行けば、「うちの会社はだめだ。戦略がない」とか「あの部長は戦略的な発想に欠ける」という会話を良く聞く。こういう時の“戦略”というものは、多くの場合「“損して得取れ”の発想がない」と言っていることが多い。「苦しくてもここでこの顧客に投資しておけば、将来花が開く」とか「当人の向き不向きを考えずに、人員が足りないから、忙しい部署や顧客に人員を投入する」など、足下の業績のための意思決定を否定することが多い。
しかしながら「戦略とは何?」というのは、戦略を担当しているマネジメントやコンサルタントに聞いても、明快な答えが得られないことが多い。
「資源配分」と答える人もいる。しかしそれは、日々やっていることだ。予算を決めるというのは、おカネの資源配分を考えることだし、人事異動や機構改革なども常に行われていることだ。言うなれば、戦略がなくても惰性でできる。
「選択と集中」と答える人もいる。しかし、米軍や大手自動車業のように、別に選択と集中をそこまでやらなくてもいい組織や企業もある。だから、選択と集中というものが、そこまで有効な答えとも思えない。選択と集中とは、戦略を考える時の一つの考え方の例であって、戦略の定義を示すものではない。
「戦略とは何か」が語れないのに、どうやって戦略を語るのだろうか?
(編集部より:ここからはITコンサルタントである筆者の宮本認さんと情報システム部長との会話です。すべてフィクションですが、実際のコンサルティング現場で行われている会話にかなり近いものです)
クールビズを戦略的に考える
「やぁ、宮本君、暑いねぇ。節電もあって、今年は大変だねぇ」
「部長のところはスーパークールビズ、やらないんですか?」
「うぅん…やってるんだけどね。ちょっと私は…」
「あ、そうですか…いやぁ、それは失礼しました。でも、部長、スマートだからファストファッションのお店とかで買えば似合うと思いますよ。最近のファストファッション、すごいですよ」
「うぅん…言いたいことはわかるんだけどね。なんか、ちょっとこの年になるとね…そういうの、照れくさくて」
「なるほど…じゃ。仕事のつもりでオシャレ、考えたらどうですか?」
「はぁ? コンサルタントって、そんなことまで論理的に考えようとするの?」
「いやぁ…そういうわけじゃないんですけど“IT戦略とは何か”ということ、今日説明するってお約束してるんですけど、戦略って何かって非常に説明しにくいので、ちょっとゲーム的に考えて頂くといいかなぁ……と思っていまして」
「え~…コンサルタントなんだから、その辺はバシっと説明してよ」
「まぁまぁ。それは後に取っておきましょう。それじゃ、質問しましょう。部長、セレブですよね?」
「はぁ? 俺は違うよ、庶民中の庶民だよ」
「またぁ。部長が庶民だって言ったら、世の中、誰がセレブなんですか?」
「でもさぁ、娘も大学行ってるし、息子も今大学受験中だからね。使えるおカネは限られているのよ」
「わかりました。じゃ、部長、オシャレした時、どう思われたいですか? ちょっと昔に流行った“チョイワルおやじ”とかどうですか?」
「いやぁ、俺はそういう柄じゃないよ。学生時代だって、オーバーオールにTシャツとかで大学行ってたんだから」
「部長、それはちょっと…」
「まぁ、そうねぇ。昔、着てみたかったIVYっぽい格好とか、今でも憧れるよね」
「IVYですか…確か、アメリカの東海岸のいい大学の学生の格好ですよね? VANとかそういうのが流行っていた頃ですね。どうしてそれを選んだんですか?」
「うぅん…当時憧れていたからなんだけど…」
「でも、その当時、別にIVYだけじゃないでしょ、流行していたのは? バリバリの不良の格好も流行ってましたよね」