金融からイノベーションは起こらない
2012年、私たちを取り巻く環境は、世界経済が変調をきたす中、円高、年金、消費税と希望の光がなかなか見えない。結果、ますます消費も投資も保守的になって、スーパーでは価格志向で小売店のプライベートブランドを選び、貯蓄は全て預金へ回ることになる。
かつて高度経済成長の中で金融サービス業が日本の成長を支えたように、現在のネガティブなサイクルを逆転させる役割を金融は担うことができるだろう。しかしながら、リーマンショック以降、金融サービス業に対する規制は強化される流れにあり、その活動の自由度はむしろ狭まり、また、その業態が必然的に有する公的性格は突飛な行動に出ることを抑制する。つまり、金融サービス業は、本質的に内部からのイノベーションを起こすのが難しい。
新しいイノベーションの形
米国を見てみるならば、活動の自由度という点でその状況は更に悲惨であり、ウォールストリートを占拠したデモ隊は、金融サービス業を経済格差の元凶であるかのように糾弾し、ボルカールールが金融サービス業に更なる制約を加えようとしている。
しかしながら、その金融機関の不活性を補うように、金融領域をターゲットとしたベンチャー企業の活動が活性化し、消費者視点で新しいサービスを次々と立ち上げる流れが出来上がってきている。ソーシャルレンディング、オンラインソーシャル家計簿、金融商品比較サービス、少額決済サービス、ソーシャル預金サービス、金融教育サービスなどなど、ここ数年で多くのサービス開発が行われてきている。中にはPayPalやmintのように、既に成功して大きな影響力を持ち始めたサービスもある。
テクノロジが果たす役割
米国におけるこうした金融サービスのイノベーションは、そのほとんどがテクノロジ、具体的にはインターネットを活用して消費者目線で金融サービスを再構築したものである。ソーシャルレンディングなどのPtoP系のサービスは、ネットを活用して、既存の金融サービスの枠組みではできなかったことを実現してしまう典型例である。こうした例を見ると、米国で金融サービスのイノベーション企業が次々と出てくることと、西海岸を中心とするテクノロジベンチャーの集積は無縁ではないだろう。
そもそも、金融サービス業自体がテクノロジへの依存度が非常に高い業態であり、日銀短観によれば、日本においてもその設備投資の実に49%がソフトウェアなのである。これは、全産業の平均がおよそ11%であることと比較すれば、いかに金融サービスがITインテンシブな産業であるかが判る。
このことは、テクノロジを積極的に活用せよと金融マンに言えば済む話ではなく、IT産業そのものが金融サービスのイノベーションに対して積極的に貢献する責任があると解釈するべきである。少なくとも私はそのように考えている。つまり、現状の打破を金融サービス業にのみ担わせるのではなく、テクノロジ産業として出来ることをやらなくてはならない。
日本で初の金融イノベーションに特化したカンファレンス
ということで、2012年2月、電通国際情報サービス(ISID)として金融イノベーションに特化したカンファレンスを開催しようと思っている。これは、金融サービスにイノベーションを起こすために何が必要であるのか、講演、パネルディスカッション、イノベーション企業によるサービス事例の紹介を通じて議論しようとする試みである。
基調講演には、ベンチャーファイナンスのスペシャリストである磯崎哲也氏を迎え、金融領域のイノベーションに関する課題提起をして頂く予定である。また、パネルディスカッションでは、ベンチャー企業、金融機関からのパネラーの方々に登壇してもらって、多角的に課題や解決策についての議論を展開したい。
金融イノベーション事例については、個人ベンチャーから大手企業まで、最大で10社くらいを目途に、1社7分の枠で次々とサービス紹介やデモをやって頂くことを考えている。内容的にはネット系サービスが中心なので、今回はリテール金融によりフォーカスしたものになる見込みである。
ベンチャーカンファレンスは日本でもいくつかあるが、金融サービスに特化したイノベーションカンファレンスは初めてではないかと思う。こうした場に、ベンチャー企業、金融機関、ベンチャーキャピタル、メディアが集まり、金融イノベーションの活性化に繋がればと思っている。
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現在、エントリー受付中なので、興味ある方は是非参加してみて下さい。登壇を希望するベンチャー企業もまだギリギリ間に合うかもしれませんので、興味ある方は事務局へ問い合わせてみて下さい。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。