ERPなどの業務ソフトウェアで知られる独SAPは、エンタープライズベンダーだけあってユーザーはオフィスユーザーが主だ。しかしSAPは、モバイルとクラウド、そしてコンシューマライゼーションなどのトレンドを受け、新しいタイプのエンタープライズソフトウェアベンダーを目指している。
目標は「2015年までに10億人へのリーチを目指す」——。
11月にSAPが中国・北京で開催した「SAPPHIRE Now/TechEd in Beijing 2011」において、アジアパシフィック・ジャパン地域で技術・イノベーションのトップを率いるSimon Dale氏がプレス向けにセッションを開き、モバイルでの戦略や取り組みについて記者の質問に答えた。
--モバイル戦略開発のSAPのビジョンは
Dale:SAPの成長戦略を後押しするトレンドとして「モビリティ」「クラウド」「インメモリ」の3つがある。モバイルはそのひとつで、従業員が手のひらで技術を利用できるようにして、現在スマートフォンやタブレットユーザーが体験しているような使いやすさを提供していく。モバイル端末でのエクスペリエンスは改善しつつあり、既存のエンタープライズソフトウェアはユーザーの期待を満たす必要があると考えている。これが第一点目だ。
二点目は拡張性。エクスペリエンスが改善すれば、ユーザーは増え、インフラレベルでの拡張性が必要となる。SAPは速度を飛躍的に改善し、優れた拡張性を実現できるインメモリを持つ。クラウドが組み合わさることで、アプリケーションのデリバリーを加速できる。
--具体的にはどのようなことに取り組んでいるのか
Dale:技術プラットフォームとしてのモバイルはまだ早期段階にある。SAPのERPコアは高い信頼性と堅牢性を備えるが、モバイルは頻繁にクラッシュするなど、まだプラットフォームとして成熟していない。
SAPはエンタープライズ(テクノロジ)の世界を熟知しているが、早期段階にあるモバイルと成熟したエンタープライズを組み合わせることで、モバイルの強化と改善を図りたい。ユーザーにモバイルエクスペリエンスを提供したいという顧客に対し、適切なコストで実現できるようにしていく。
同時に、モバイル分野でのイノベーションを加速していく。ここでは、11月はじめに発表したアプリケーションストア「SAP Store」が重要になる。ユーザーに対し、SAPおよびSAP以外のアプリを含む多彩な選択肢を用意したい。
これらを実現するため、SAPは2010年にSybaseを買収した。Sybaseはモバイルプラットフォームの「Unwired」、端末管理の「Afaria」など、エンタープライズモバイル向けの広範な技術を持っている。
もっと小規模に、シンプルにモバイル対応を進めていきたいというユーザーには、「NetWeaver Gateway」を用意する。GatewayはNetWeaverの拡張技術で、顧客はこれを利用してユーザーエクスペリエンスを構築できる。すでに、Volkswagen ChinaがNetWeaver Gatewayを利用して、SAPシステムと接続したiPad向けワークフローを構築するなどの事例がある。