『ソーシャルシフト』が変える企業価値の判断基準

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2012-02-21 11:22

 『ソーシャルシフト』とは斉藤徹氏の著書のタイトルであり、その定義は「ソーシャルメディアが誘起する、不連続で劇的な変化。そして、マーケティング、リーダーシップ、組織構造にまで及ぶビジネスのパラダイムシフトをあらわしたもの」と説明されている(P3)。

 事実、最近のネット系企業の企業価値は、従来のようなスタティックな財務データだけでは判断できなくなっている。そして、そこに目を付けた新興金融サービスとして、新しい価値基準で企業を審査し、融資を行う動きが出てきている。

新しい価値判断

 米国で中小企業融資を行うCapital Access Networkは、その融資判断にあたり、「売り上げの額だけでなく売り上げの発生頻度や在庫アクセス、eBayの売り手格付け」などの情報を活用するという(TechCrunch Japan)。ネットショップ向けの運転資金貸出を行うKabbageは、ネットショップ事業者への貸し出しにあたり、売り上げだけでなく、サイトトラフィックや顧客レビューなどを活用している。また、同社が宅配大手のUPSと提携するとのニュースがあるが、これも出荷・配送の情報からビジネスの活性度を判断するためだという。

 ソーシャルシフトの結果として、企業と顧客の関係性が大きく変わりつつあり、その渦中にあるオンラインビジネスの成長判断を行うことが難しくなりつつある。顧客とのつながりがマイクロセグメント化し、どんどん小ロット化して行く中で、単に表面的な売り上げだけを見ていても、その潜在的な成長性を見て取ることができない。

 そこで、顧客からのレーティングや出荷頻度などの新しい判断基準を持ち込むことにより、これまで判断しようが無かったオンラインビジネスの成長可能性を審査しようということだ。

企業のバリューチェーンの変化

 斉藤徹氏は『ソーシャルシフト』の中で、企業のバリューチェーンに生活者が積極的に関与し始めていることを指摘している。特に、商品開発やマーケティング、アフターサービスなどの領域において、顧客の果たす役割が大きくなっている。

 つまり、その企業の商品開発力は研究開発に投じる金額によっては最早判断できず、いかに顧客と商品開発において協力関係を築くことが出来ているかに掛かっている。また、ビジネスプランにマーケティング費用を積んでいることに意味はなく、いかにして顧客から顧客へと情報を連鎖させる仕組みを構築しているかが重要になる。

企業評価のKPI

 「ソーシャルシフト」の結果として、企業のバリューチェーンに起こりつつある変化は、従来型の企業評価の方法では見出すことが出来ない。とはいえ、企業の価値そのものは将来キャッシュフロー、つまり、いかにビジネスアイデアをマネタイズ出来るかに掛かっている。変えてゆくべきは、事業が生み出す将来キャッシュフローを予測するのに使うKPI(主要な評価指標)ということになる。

 これを事業を行う側と資金を提供する側が相互に認識することにより、経済全体の活性化がもたらされるだろう。一方、そこにギャップがある今こそは、新しい金融サービスが成立し得る土壌でもある。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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