長所と短所
さて、ここからが問題である。
何が問題かというと、フォーストル氏が師匠の悪いところまで受け継いでしまったようにみえるという点である。Businessweekの記事から、その「長所と短所」をいくつか書きだしてみると次のようになる。
長所
- 幹部のなかでいちばん若い(40代前半)
- 部下からの厚い信頼信頼
アップル社内に半ば独立した自分のチームをつくり、競争意識をかき立てている。 - 付き合いのある他社の関係者や、外部アプリ開発者からの評価が高い
- ディテールにこだわる
ミニルーペを持っていて、アイコンの細かい仕上げにまで注意をはらう - 几帳面
クライナー・パーキンスの「iFund」担当VCによると、相手の話すことをiPhoneにしっかりメモしている(一見「人の話もよく聞かずに、ショートメッセージを打ってるのかと思ったが、実は……」というオチ) - 欲しいものは何としてでも手に入れる
「Siri」やクアトロワイアレスの買収など - プレッシャーに強い
- 業界動向に通じている
短所
- 「アップル追放前」のスティーブ・ジョブズとよく似たところがある
- どちらかというと、部下の管理よりも、上司の扱いに長けている
他の人間と一緒にやった仕事は自分の手柄にするいっぽう、自分のミスについては人の責任にする - 政治的な立ち回り方がうまい
iPhone 4のプロトタイプが流出した際も、ほぼ無傷で生き延びた
(エンジニアにプロトタイプを持たせるよう自分がジョブズを説得したにもかかわらず) - だめ出しするのに「スティーブがきっと気に入らないだろう」(“Steve wouldn't like that.”)を連発(していた)
- 他の幹部との関係がギクシャクしがち
「ジョニー・アイブ氏やボブ・マンスフィールド氏は、ティム・クックCEO同席でないと、フォーストル氏とのミーティングをしたがらない」
iOS開発に向けたレースで敗北したトニー・ファデル氏(元iPod担当幹部、その後独立してAIサーモスタットのNestを創業)は、フォーストル氏との折り合いの悪さから結局アップルを辞めることに。
やはりアップルを離れたジョン・ルービンスタイン氏(元ハードウェア担当幹部、その後PalmのCEOに)は、あるパーティの席で楽しそうに会話していたが、「フォーストル」という名前が出た途端「じゃあ」といってその場を離れた、という逸話も。
こういう実力者の存在というのは、端から眺めている野次馬にはとても興味深い。アップルはすでにティム・クック体制を長期政権化する前提で、同氏に2021年まで働いてもらうべく推定総額4億ドルともいわれるストックオプションを付与している。そうなると、野心満々のフォーストル氏に出番が回ってくるのは、あと10年近く先ということになるが……。この点については、アダム・ラシンスキー記者も次のように記している。
"Whether Forstall will happily remain a supporting player will be one of the great internal dramas of Cook's tenure."
(フォーストル氏が今後もサポート役で満足しつづけるかどうかは、クック体制下で展開される壮大な社内ドラマのひとつになろう)
いずれにしても、「いずれはトップに」という野心をもつフォーストル氏が「自分が最も適役」と思える新製品発表の場に、これまで以上の意気込みで臨んだとしてもまったく不思議はない。対外的に自らの認知や評価を高めることは、そのまま社内での影響力増進につながるだろう(同氏の場合、経営への貢献度の高さはすでに証明済み)。
また「やかましい師匠」がいなくなったとなれば、それこそ「誰に気兼ねする必要があろうか」と考えているかも知れない。
そういう諸々の想いが重なり合い、「すっかりその場で買う気持ちにさせる」ような素晴らしいプレゼンテーションに結実することを願っている。
出典および参考情報
Apple sends out invites for March 7 iPad event - CNET
Watch out, Tim Cook: Apple VP Scott Forstall is eyeing your job - CNET
Scott Forstall, the Sorcerer's Apprentice at Apple - Businessweek
How Apple works: Inside the world's biggest startup - Fortune
Inside Apple [Kindle Edition] - Adam Lashinsky
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