ジンガのFacebook脱出作戦が意味するところ

飯田哲夫 (電通国際情報サービス) 2012年03月06日 08時00分

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 Facebook上で「FarmVille」などの人気ゲームを展開するZyngaが、ついにFacebookから離れ、独自のプラットフォームを通じてゲームの提供を始める(CNET)。

 そのプラットフォームは他のゲーム開発者にも提供されるのだが、認証と決済については、Facebookのサービスが引き続き利用される。これはFacebookとZyngaが2年前に締結した契約の中に、Facebookの認証と決済サービスを利用するという内容が含まれており、その契約期間が5年であることによるようだ。

競争レイヤを変えたZynga

 さて、今回のZyngaの動きは、その競争レイヤをアプリケーションレイヤからプラットフォームレイヤへ変えようという意志表示である。つまり、短期的にはFacebookとの協業を維持しているように見えるが、他の開発者にもそのプラットフォームを開放している時点で、Facebookと激突することは避けられない。

 しかし、ゲームのビジネスがプラットフォーム間の競争へと発展すること自体は、決して目新しいことではない。ゲームのフィールドは今やオンライン上のソーシャルゲームが一般化しているが、その競争環境は一昔前からプラットフォームビジネスの論理に支配されていた。

 ゲームの主流が家庭用ゲーム機であった時代には、PlayStationやファミリーコンピュータのようなハードウェアがプラットフォームであり、各プラットフォームがどれだけ多くのゲームメーカーを惹きつけ、どれだけ多くの人気ソフトを揃えられるかが勝負を分けた。それが今は、オンライン上のソーシャルプラットフォームに形を変えているに過ぎない。

垂直移動によるビジネス拡大

 今回Zyngaはゲームソフトのレイヤから、それを支えるプラットフォームのレイヤへと降りてきた。分野は異なるのだが、こうしたレイヤを移動しながらビジネスを拡大した事例としてはOracleが想起される。

 Oracleの場合は、データベースのレイヤから、下はミドルウェア、OS、ハードウェアまで、上はビジネスアプリケーションへと、ある意味全方位的にレイヤを跨いでビジネスを発展させた。重要なのは、レイヤを跨ぐとき、それまで補完関係にあった企業は競合になり、これまで競合であった企業とは補完関係になることだ。これは、分野がデータベースでもゲームでも同じである。

 Zyngaも、実はゲームのプラットフォームを提供するに際しては、単にソフトウェアとしてのプラットフォームに留まらず、サーバ領域にまで踏み込んでいる。というのも、Zyngaは、過去数年に渡ってAmazon.comから自社のサーバ群へ移行するために数百億円を投じてきているのである(BusinessWeek)。

 このようにレイヤを跨ぐことは、別のレイヤにおいてはこれまでの競合他社をも支援しなくてはならないように、競争戦略を大きく変えることが求められる。Zyngaの場合には、Facebookのようなソーシャルプラットフォームはもちろん、出方によってはAmazon.comなどのクラウドサービスが新たな競合として浮上する。一方、これまで競合であった他のゲーム開発企業を味方として迎え入れることとなる。

変わらないビジネス戦略の原則

 競争のフィールドは、ローカルからクラウドへ、パーソナルからソーシャルへと移っても、ビジネス戦略の原則そのものが変わる訳ではない。Zyngaが本気でプラットフォームビジネスへ取り組むならば、そのプラットフォームやFacebookよりも強いネットワーク効果を持ち、そこを離れるスイッチングコストは高いものでなくてはならない。

 また、これまでは競合であった他のゲーム開発者達が戦略上の補完関係にあることを忘れてはならないだろう。ZyngaとFacebookの契約期限が切れ、本格的な競争関係に突入していくとどうなるのだろう? お互いに排他的なソーシャルプラットフォームとなるのか、それともお互いに役割の異なるソーシャルプラットフォームになるのだろうか?

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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