三国大洋のスクラップブック

グーグルが破壊する通信会社の既得権益

三国大洋 2012年08月03日 14時26分

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 グーグルが米国時間7月26日にFTTHサービス「Google Fiber」の開始を発表、その詳細を明らかにした

 Business Insiderが「Gmail以来の大きな破壊力をもつ一手」と評している(註1)ように、久しぶりに「イケてるグーグル」を想起させた意欲的な取り組みだ。しかも、構想の大きさや潜在的な破壊力の「ヤバさ」といった点では、タブレット端末「Nexus 7」の投入など比較にならないほどスリリングなものにも思える。

 まだ海のものとも山のものともつかぬこの取り組みが化けた時、どんなことが起こるか。

 今回はその可能性を検討していきたい。

携帯通信事業者とのせめぎ合い

 先に結論を書いてしまうと、このGoogle Fiberがほんとうに面白い存在になるのは、これから何十、何百という都市圏にこのネットワークが広がり、それがベライゾンとAT&Tという二大通信事業者の事業まで脅かすようになった時だろう(両社はいずれも固定線事業と携帯通信事業の両方を手がける)。

 無論、その手前にある「固定線の分野」——ケーブルテレビ事業者や電話会社が提供するISPサービスと、これにバンドルして提供されるコンテンツ配信市場をdisruptするだけでも、かなり大きな利益が期待できる。以前、Xboxの記事(「リビングの主役に躍り出たXboxのモメンタム」)で書いたように、米国では関連分野の市場規模があわせて1600億ドル以上もある(米有料テレビ市場は910億ドル、その他にテレビ広告市場が720億ドル)

 2011年度の年間売上が約380億ドルのグーグルにとって、この市場の一角を切り崩せただけでも、かなりボリュームのある収益機会が新たに生じることになる。

 それと同時に、FTTHという「堀割」を築くことで、現在のグーグルを成立させている検索(広告)事業という「城郭」を強力に保護することも可能になる。アップルのiOS端末を使ったモバイル検索・広告市場への攻勢は、グーグルにとってこれまでで最大の脅威であろう。Google Fiberと、それにつながるリビング向けのデバイスやNexus 7を消費者に届けることができれば、グーグルにとっては自社のクラウドとユーザーの間に割って入る「邪魔な存在」——潜在的な脅威の大半を排除できることになる。

グーグルのダークファイバー

 Google Fiberという一手が戦略的に秀逸なのは、アップルやマイクロソフトをはじめとする競合各社があまり手をつけていない通信回線という領域で主導権を握ろうとしている点にある。

 昔のことを覚えている読者のなかには、グーグルが2000年代前半、ネットバブル崩壊で供給過剰に陥った光ファイバーの基幹線を大量に買い漁っていたことをご記憶の方もいるだろう。スティーブン・レヴィが昨年出版した『In The Plex』(邦題『グーグル ネット覇者の真実』阪急コミュニケーションズ刊)にも、そのことが詳しく記されている(註3)。同書には、今はベンチャー投資家として活躍するクリス・サッカ氏の「地球上の(ほかの)誰よりも多い」という発言が引用されている(註4、5)。

 グーグルのダークファイバー保有量がどれほどのものか。戦略的に重要な事柄はほとんど開示しないグーグルのこと、具体的な数値(通信容量や長さ)は「藪の中」なのだが、いずれにしてもアップルやマイクロソフト、アマゾン、フェイスブックといった大手各社が最新鋭のデータセンターを各地に構築し、クラウドの処理能力を増強しているなかで、さらに一歩先を行く回線部分でのアドバンテージをグーグルが前面に押し出してきた。

 このGoogle Fiberでまず目を引くのはその点である。(次ページ「携帯キャリアはイノベーションの最大の障害」)

註1:Gmail以来の大きな破壊力をもつ一手

Google Fiber Is The Most Disruptive Thing The Company's Done Since Gmail

Business Insiderが挙げている理由は次の3つ:

  1. 既存事業者の技術革新のスピードがいかに遅いかが、Google Fiberで明らかになってしまった
  2. グーグルが自社のハードウェアに関する専門知識を活用した
  3. Google Fiberが新たな事業分野の誕生につながる道を開いた

註2:イケてるグーグル、イケてないグーグル

イケてる(=勢いがある)のは、主にネットワークやデータセンター側の事柄、Androidだ。それに対してイケてないのは、ソーシャル分野で後手に回り、フェイスブックをはじめとする後発ベンチャーの後追いのようなサービスを連発したり、そういった競合他社や新興企業にどんどん人材が流出してしまっているところ。

7月中旬にFortuneが開催したイベント「Brainstorm」では、エリック・シュミット会長と有力VCのピーター・ティールのセッションがあったが、このダイアローグのなかで「グーグルは多くの場合、人間よりもコンピュータの方が好きだから。彼らがソーシャルネットワーキングの大変革の波に乗れなかったのはそのせい」とティールからバカにされていた。

PETER THIEL: You know, they like computers more than people in many cases. That's why they missed the social networking revolution.

Transcript: Schmidt and Thiel smackdown


註3:スティーブン・レヴィ

1970年代末からシリコンバレーの動きを追い続ける、おそらく最古参の現役ジャーナリストの一人。この間、Rolling Stone、Newsweek、WIREDとホームを変えてきたが、いまだにコンスタントに記事を書いている。また70年代末から80年代はじめの『ハッカー』から最新刊まで著書多数。


註4:グーグルのデータセンターと光ファイバー回線

以下は『グーグル ネット覇者の真実』(p. 295)からの引用

グーグルはITバブル崩壊後にデータセンターの供給過剰状態を利用してコストを節約したが、ファイバー回線の調達に際しても同様の機会に恵まれた。1980年代から1990年代にかけて、ネットワーク構築を専門にしている多くの企業が光ファイバーに膨大な投資を行った。だが、その多くは需要を過大に見込んでいたために、2000年代初めまでに行き詰まるか倒産していた。グーグルはそれらの企業が築いたファイバー回線網から、自社にとって戦略的に価値のある部分を買い取り始めた。(中略)「こうして1ドル払うところを10セントですませたんだ」。光ファイバー回線は膨大な通信容量を可能にしたため、グーグルは自社で保有していない回線部分を埋めるために他のブロードバンド会社と取引をした。(中略)ファイバー回線調達計画を完了させる頃には、グーグルはユニークな立ち場に置かれていた。「私たちは借り物ではない自前のファイバー回線を所有していた。つまりデータ転送に関してはもう何の問題もなくなった」とクリス・サッカは言う。だがその時点で、グーグルの保有回線はどの程度だったのだろうか?「地球上の誰よりも多い」というのがサッカの答えだった。


註5:クリス・サッカ

クリス・サッカ(Twitter)が運営するベンチャーキャピタル、Lowercase Capitalのウェブサイトにある「投資先一覧リスト」はかなりの見物である。

このサッカ氏、Wikipediaの当該ページを見ると、グーグル在籍時には「代替アクセスおよびワイヤレス部門」を率い、代表的な実績のなかには「マウンテンビュー市全域での無料Wi-Fi網構築」「オレゴン州でのデータセンター建設」とならんで「700MHz周波数帯のライセンス取得に向けた取り組み」(今の日本で言う「プラチナバンド」にほぼ相当)とあるのが実に興味深い。

The Cost of Connectivity

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