三国大洋のスクラップブック

iPhoneを葬るのは誰か

三国大洋 2012年09月12日 15時40分

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 以前、「iPhoneは何を破壊したのか」というコラムを書いた。今回はその続きのような話だ。

 米カリフォルニア州では、8月の大半を費やしてアップルとサムスンの裁判が審理された。スマートフォンやタブレット端末の特許侵害をめぐるこの裁判では、陪審員がアップルの大勝利という判断を下した。

 この審理を通じて、これまで外部に出ることがなかった多くの事実も公表された(註1)。

 そして米国時間の9月10日、審理の資料をわりと丹念に読み込んで書かれたと思われる記事がオンラインマガジン『Slate』に掲載される(註2)。

 「It Smelled Something Like Pizza」と題するこのコラム、書き手のFarhad Manjooが新たに掘り起こした事実はほとんどないのだが、全体としてはよくまとまっており、面白い内容になっている。

 今回は、この記事から印象に残った点を挙げてみたい。

自ら稼ぎ頭を葬り去ったアップル

 その昔、アップルに「iPodという稼ぎ頭」がいた事実は多くの人がご存じのことだと思う。また、この稼ぎ頭(キャッシュ・カウ)の存在意義が、性能向上・多機能化する携帯電話に脅かされていたことを記憶されている方も少なくないだろう。

 つまり、アップルはiPhoneの開発を通じて結果的に携帯電話を再発明することとなった。その背景には、「他人にやられてしまう前に、自分たちの手でキャッシュ・カウを葬り去る」必要があったのだ。

 その事情について、Manjooは次のように記している。

iPodの人気の高さや、それがアップルのボトムラインにもたらす売上・利益の大きさを考えると、携帯音楽プレイヤーを殺すことを明らかな目的とした製品を開発しようとすることは、アップルがこの地球上でもっともやらなそうなことのはずだった。(註3)
けれども、アップルの経営幹部の間では、いずれどこかの携帯電話メーカーが(当時の、かなり使いにくい)インターフェースの問題を解決し、通話のほかに音楽や動画の再生などさまざまなことに使える汎用の端末を開発してくるとの認識があった。(註4)
アップルがそんな未来(の実現)を避けるためは、iPodキラーとなる製品を自らの手でつくり出すこと以外に選択肢はなかった。(註5)

 モトローラに「ROKR」(2005年9月発表)という携帯電話があったことを覚えている方は少ないと思う。Manjooのコラムには言及がないが、あの「失敗作」の存在を踏まえると、アップルがiPodの将来性に危機感を抱いたことも、どちらかといえばごく自然のことに思われる。

 それでも、こうした見通しを持っただけでは、ほとんど何も意味を持たない。しかし、当時のアップルがその危機感を出発点にして、実際に足を前に踏み出したという点は、やはり特筆に値することだ。

 この切実な事情と見通しから、やがて「ゲーム・チェンジャー」となるiPhoneが生まれるわけだが、むろん「最初から正解が見えていたわけではない」ことも改めて記しておくべき点だろう。(次ページ「地道な試行錯誤がiPhoneの新UIを生んだ」)

註1:外部に出ることがなかった資料

実に様々な資料や証言が明らかになっている。

・両社のさまざまな試作機の画像 ・「プロジェクト・パープル」という極秘開発プロジェクトを率いたiOS責任者のスコット・フォーストルの証言。例えば、チームが占拠した建物(パープル・ドーム)の入り口ドアには映画『ファイト・クラブ』にちなんだサインが掲げられていたという。
・アップルのベテランデザイナー、クリストファー・ストリンガーが明かした同社デザインスタジオにあるキッチンの話。キッチンに置かれたテープルのまわりに15人ほどのデザイナーが集まり、いろんなアイデアなどを話し合っていたという。
・サムスンのモバイル端末事業の責任者、JK・シンが部下のデザイナーに語ったとされる「デザインの危機」についてのメモ

などなどだ。各メディアがエース級の記者を傍聴席に送り込み、1日に何本も記事を掲載したものだから、全体としては文字通り手に余る量の情報が出ていたことも間違いない。


註2:Slateのコラム

"It Smelled Something Like Pizza": New documents reveal how Apple really invented the iPhone. - Slate

これを書いたのはFarhad Manjooというコラムニスト。このところFast CompanyやPandoDailyなどにも活躍の場を拡げているせいか、名前を目にすることが増えている印象の書き手である。


註3:キャッシュ・カウを葬り去った事情 その1

Given the popularity of the iPod and its centrality to Apple's bottom line, Apple should have been the last company on the planet to try to build something whose explicit purpose was to kill music players.


註4:キャッシュ・カウを葬り去った事情 その2

Yet Apple's inner circle knew that one day, a phone maker would solve the interface problem, creating a universal device that could make calls, play music and videos, and do everything else, too.


註5:キャッシュ・カウを葬り去った事情 その3

Apple's only chance at staving off that future was to invent the iPod killer itself.

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