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iOS責任者フォーストルの退社は「ジョブズ後」への第一歩か

三国大洋 2012年10月30日 15時16分

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スティーブ・ジョブズの親衛隊として名をはせたスコット・フォーストル
スティーブ・ジョブズの親衛隊として名をはせたスコット・フォーストル

 今朝方、アップルのiOS責任者であるスコット・フォーストルSVPが退職へ、というニュースが突如流れ、世間を大いに驚かせた。

 米国時間29日の夕方時点では、真相は「藪の中」だ。英語圏の各メディアでは、アップルが発表した新人事の「事実」を伝えるのにまだ終始している印象で、野次馬にとっていちばん気になるところ——「どういう経緯でこうなったのか」「フォーストルの方から辞めると言い出したのか、それともほかの誰かに三行半を突きつけられた末の苦渋の決断か」「本人が辞める意志を固めたのが具体的にいつ頃のことだったのか」等々については、まだ伝えているところを目にしていない。

 FortuneやBusinessweekなどのリソース(資力)をもつメディアから今後、充実した記事が出されるのを期待して待ちたい。

(編註:フォーストル氏に関する詳細なプロフィールとアップル内での立ち位置については「アップル幹部のスコット・フォーストル氏に注目すべき理由」をご覧ください)

 ちなみに、Fortuneのアダム・ラシンスキーはTwitterで「フォーストルは『Siri』『iMap』のDRI(Direct Responsive Individual)だ」と指摘しているが、これも取材や裏を取ってつぶやいているわけではない。

追記

新人事を伝えた第一報に続き、29日夜には第二報として「iOS 6の『マップ』アプリとサービスをめぐる例の失態に関し、フォーストルが責任を認めようとしなかったことが結局命取りになった」旨の話が伝えられている。9月末に公開された謝罪のレターは、本来ならフォーストルの名前(もしくはフォーストルとティム・クックCEOの連名)で出されたはずのものだったかもしれない。

さらにNew York TimesのBitsには「フォーストルも、同時に退社が発表になったアップルストア責任者のジョン・ブロウェットも実質的にクビになった」という匿名情報筋の話が出ている。

 さて、既報の通り、今回発表された新人事でデザイン責任者のジョニー・アイブ、そしてハードウェア関連のエンジニアリングを長らく見てきたボブ・マンスフィールドの権限が大きくなった。

 スティーブ・ジョブズという後ろ盾を失ったスコット・フォーストルが「自滅」し、そのフォーストルとは犬猿の仲——「ティム・クック同席でなければ口もきかない」とされていたアイブとマンスフィールドが生き残った。

 結果だけ見ればそういう形になる。

 とりわけ、ボブ・マンスフィールドは今年に入って一度アップルを去ると公表していたのを、ティム・クックの慰留にあってなかば「無任所大臣」という形でアップルに籍を置きつづけていた人物だから、見方によっては「大ドンデン返し」とも映る。(訂正:当初「慰留」を「留意」と記載していました。お詫びして訂正します)

 同時に、アップルのなかで「スティーブ・ジョブズの親衛隊」としてこれまで半独立国として存在してきたiOSチームの解体も進むことになる。SiriとiMapの尻ぬぐいは、例によって「Mr. Fix It」の異名をもつエディ・キューが背負い込むことに。一方iOS自体については、一部でなにかと評判の芳しくなかったユーザーインターフェースの部分をジョニー・アイブが、ソフトウェアエンジニアリングは新たにエグゼクティブチームに入ったクレイグ・フェデリッジが、OS Xといっしょに面倒をみることになる。

 こうして新旧のメンバー表を並べて見ていると、今まで通り全体の面倒をティム・クックがみて、「売る」のはフィル・シラーがみる(ただし、シラーはマーケティング担当という肩書きから想像される以上の権限、たとえば製品仕様の決定権などまで握っているとされる)一方で、アイブとマンスフィールドが一緒になって将来に向けた新しい製品のネタを仕込んでいく……という可能性が感じられる。

 スティーブ・ジョブズは生前、2〜3年後までの製品・サービスのロードマップを用意していたと言われているが、それを踏まえて考えると、今回の人事は(ことの経緯は別にして)本当の意味で「ジョブズ後のアップル」に向けた第一歩という見方もできそうだ。

 ところで、iPhone 5やNexus 7などの比較的新しい製品を使っていて、あらためてつくづく思うのは、ハードウェアとソフトウェア(それにオンラインサービス)の緊密な結びつきが製品の出来映えを大きく左右するということだ。今さら声高にいうことでもないが、たとえば相対的にはとてもよくできていると思えるNexus 7でも、バッテリーの持ちがあまりよくない(特にWi-Fiのスイッチをオンにしておいた場合)、結果として使う機会も少なくなりがちになるということになる(統一感に欠けるアプリアイコンのデザインについては百歩譲るとしても)。

 たとえばジョニー・アイブがものすごく薄くて軽い端末を作りたいと考え、それを実現するために部品の小型化や高性能化などの精緻なエンジニアリングをマンスフィールドなり後任のダン・リッチオなりが担当したとしても、かつてのiOSのように、やたらとバックグラウンドで無線関連のセッションが繰り返されていたら、バッテリーの持ち時間はその分短くなってしまうだろう。さらに、「高速」を売り物とするネット接続のトラフィックも渋滞しがちになる。そうなると、せっかくのエンジニアリングの成果、さらにはユーザーエクスペリエンス全般さえも台無しになりかねない。

 そうしたハードとソフトの結びつき具合を前提にすると、「稼ぎ頭」「大黒柱」であるiPhoneとiPadに関して、ハードウェアの責任者とOSの責任者が「口も聞かない間柄」というアップルのこれまでの状況はかなり異様で、かつクリティカルな問題であったとみることもできる。

 ハードウェアに加えてソフトウェアのユーザーインターフェースのデザインまで権限をもつことになるアイブ、そしてプロセッサやその他の部品まで踏み込んで開発する可能性が高いマンスフィールド。この二人の間からいったいどんな新しい製品が生まれてくるのか(相変わらず「四角くて、平べったくて、カドがまるい、ガラスの付いた板」という可能性は充分ありそうだが)。

 もうすこし真面目な話(可能性の高い近未来の話)をすると、これまでデザインの玄人筋から「あまり意味のない実物の模倣」「余計な飾り」「単なる自己満足」という声があがっていたiOSとOS Xのユーザーインターフェースは、次のOSアップデートあたりからさっそく大きく変わるかもしれない。

 このFastCompanyの記事では、黄色いリーガルパッドを模倣したメモアプリも、Passbookの使い終わったチケットを削除する際のシュレッダーの動きも、デジタルが基本で育った「若い世代には、もはや何のことだかピンとこないもの」といった批判もあるという。iPhone 5発表目前の段階で公開されたこの記事は、全体にかなり手厳しい書き方でOS Xのカレンダーのレザーっぽいデザインは「もともとジョブズのプライベートジェットの内装をマネしていたもので、そんなのはマスターベーション」とまで言い切っている。

 ジョブズもなんだかんだと言いながら、やはり古い世代——「デジタルなものがどこまでリアルなものを再現できるか」というマインドセットの時代に生きた人で、アイブとともにどんどんと無駄をそぎ落とす方向に進んでいったハードウェアのデザインとは裏腹に、ソフトウェアのユーザーインターフェースはそういう「似非リアルなもの」を好んだ。ジョブズの子飼いとして台頭したソフトウェアエンジニアのフォーストルは、ユーザーインターフェース・デザインの時代の流れに背を向け、そんなジョブズの意を叶えようと邁進した……といったことになるのかも。

 アイブは、かつてブラウンの製品デザインを手がけ、数々の名作を残したデザイナーのディーター・ラムをデザイン上の師と仰ぐ。そんな彼が無駄な飾りを取り去って新たにつくるインターフェースはどんなものになるのか。かなり前向きな期待が持てそうにも感じている。

 一方、マンスフィールドについては、無線関連の技術開発まで一手に引き受けることになるのだそうだ。アップルについては先ごろ「宿敵サムスンから著名なチップ開発者を引き抜いた」「次のプロセッサ製造については台湾TSMCに委託するつもりらしい」といったニュースも伝えられている。そうした流れのなかで、アップルが独自の技術(部品)開発をどこまで進めていくのか(よもやクアルコムと競争してまで、統合型の無線チップを作るようなこともないだろうが)。これもまた楽しみな展開の一つとなろう。

 一方、スコット・フォーストル本人の「この先」にも関心が集まる。「敵も多いが、熱烈な支持者も」という評判から推測すれば、本人がなにか新しいことを始めるとなれば、それに付き従う人間も当然出てこよう。かつてフォーストル(のチーム)との戦いに敗れ、アップルを去ったトニー・ファデル(現ネスト創業者 兼 CEO)のように、古巣とバッティングしない新領域をうまく見つけられると、本人にとってもアップルにとってもいいのだが……。

(後編を掲載しました「iOS責任者の追放とアップルでのトロイカ体制の確立」)

(敬称略)

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