iPad miniのキャッチフレーズは「Every inch an iPad」
11月2日のiPad mini発売を控えて、米国時間10月30日深夜からWall Street Journal(WSJ)、New York Times(NYT)といった有力メディアのサイトで、先行レビューがいっせいに公開された。
今回はそれらのレビューのなかから、気になった点をいくつか紹介してみたい。
iPhoneをのぞくiOS端末だけでも、9.7インチディスプレイを搭載するフルサイズのiPad(第4世代とiPad 2の二種類)、さらに4インチのiPod touchと、値段やサイズがそれぞれ微妙に異なる製品が出揃った。
グーグルのNexus 7、アマゾンのKindle Fire HDといった競合他社の主力製品もしのぎを削るこのミッドサイズのタブレット市場に、アップルが後出しで投入したのがiPad mini。購入を検討する人にはきわめて悩ましい選択肢のひとつに思えるが、一方でいくつかの特徴、もしくは最適な使い方というのもはっきりしている。
下記に挙げるコラムに目を通したかぎりはそんな印象を受ける。
各コラムが注目するのは、具体的に「サイズ」「ディスプレイ(の解像度)」「価格」である。今回はこの三つを中心に目の肥えた著名ジャーナリストやブロガーの見方を横串で紹介していく。(iPhone 5レビューの横串解説は「iPhone 5に大絶賛の嵐 米有力コラムニストの評価出揃う」を参照されたい)
なお、先に留意点として挙げておきたいことが二つある。
一つは、ほとんどのレビュアーがガジェット全般の評価に関して「すれっからし」であるという点。たとえば、Retina Displayの採用が見送られたiPad miniのディスプレイについては、ほとんどの評者が「残念な点」として挙げているが、これなどすでにiPhone 4Sや5、iPad 3、あるいはMacBook ProでRetina Displayに長時間接していないと特に気にならない事柄である。
同様に、ほとんどのレビュアーが多かれ少なかれアップルと近しい関係にある、という点にも注意が必要だろう。たとえば、iPad miniが発表された10月23日のイベントでは、ティム・クックCEOによるプレゼンテーションの冒頭で、iPod touchを褒めるThe Vergeのコメントがまっさきに紹介されていた。これなどは比較的新しいメディアにとってまたとない宣伝の機会、そして評判を上げるチャンスだろう。WSJのウォルト・モスバーグ、NYTのデビッド・ポーグといった常連にしても事情は同じで、持ちつ持たれつの間柄と思える。
二つ目の留意点は、とくに7インチのタブレットについて主な用途となるメディアコンテンツをめぐる事情が、日米で大きく異なることだ。iPadに最適化されたアプリの多さなどを優位点のひとつとして挙げている記事もいくつかあるが、「それをいうならKindleの書籍の品揃えはどうなんだ」とか「プライムメンバーにほとんど無料(見放題)で提供されている動画コンテンツはどうなんだ」と、いろいろ疑問が湧いてくる。それを気にし始めると収集がつかなくなってしまうので、今回はそうした事柄への行き届いた目配りは省くことになる。
これらの点を予めご承知いただければと思う。
ディスプレイ
iPad miniに搭載されている7.9インチディスプレイの解像度は、iPad 2と同じ1024×768ピクセルで163ppi。これを「残念」と評しているのは、The Verge主筆のジョシュ・トポルスキー、WSJ(AllThingsDigital主筆)のウォルト・モスバーグ、NYTのデビッド・ポーグ、CNETのスコット・スタイン、それにDaring Fireballのジョン・グルーバーなどだ。いずれも口を揃えて「決して悪いものではないが」と但し書きをつけて、その後に「他社製品より100ドル以上も高いのだから……」という一言を続けている。
コラムの冒頭で、いわゆる釣りを狙って「これ、Kindle端末みたいね」「まぁ、スクリーンがひどいわ」という奥さんのコメントを書いているジョン・グルーバーは極端な例としても、「264ppiのRetina Displayが搭載されたiPadフルバージョンはいうまでもなく、Nexus 7、Kindle Fire HD(どちらも1280×800ピクセル、216ppi)、バーンズ&ノーブルのNook Color HD(1440×900ピクセル、243ppi)と比べても物足りない」「(Retina Displayだと気にならない)文字の縁のジャギーが目につく」などと指摘しているものが複数ある。むろん、これについては全体のサイズや価格とのトレードオフでもあり「どこまで気になるか、ならないか」は、やはり「実物を見て判断」というのがいちばんてっとり早いかもしれない。
サイズと質感
取り回しや使い勝手の良し悪しに直結するサイズ、つまり重量と厚みについては、どのコラムでも高い評価を与えている。「造りや仕上げがしっかりしている」といった点もほぼ同様。逆に、iPhone 5と同じ背面の仕上げと、この薄さでは「Smart Coverを付けたほうが持ったときの安定感が増す感じ」とThe Vergeでは指摘するほどである。
また、このサイズは「文字を読むのに最適化されたもの」とグルーバーが書けば、The Vergeのトポルスキーは「常時持ち歩きたくなるもの」(フルサイズのiPadではそうはならなかった)と書く、といった具合である。
それに対し、CNETのスタインは「Retina Display非搭載のiPad miniは、読書用端末としてはいまひとつ」としつつ、それでも「画面からの距離を離して文字を大きくすれば、おそらく粗には気づかなくなるだろう」と記している。
余談になるが、私自身の実感としては、すでにある新しいiPod touchやiPhone 5などもリーディング端末として十分なものになっていると思える。画面サイズが4インチになり、動作も高速になっているから、PCブラウザのページをそのままモバイルSafariで見ることも増えている。そうなると「常時持ち歩く端末」としてのiPad miniの立ち場は少々不利になるように思えたりもしている。
それとは別に、「フルサイズのiPadでは大きさを持て余していた子供にとっては、iPad miniのサイズがちょうどいい」というグルーバーの指摘は、私自身にも腑に落ちるところが多い。とくに文字を読むための端末ではなく、ゲーム端末としては「iPad miniの性能の高さとアプリの豊富さが優位に働く」というのはわかる。ただし、この価格(日本で2万8000円から、米国では329ドルから)のものが「クリスマスのプレゼントとして飛ぶように売れるだろう」というグルーバーの予想は、実感としてよくわからない……おそらくこれは大人同士も熱心にクリスマスプレゼントを交換する(らしい)米国の風習あるいは文化を踏まえたものかもしれない。
なお、アルミとガラスでできたiPad miniの「しっかりした造り」という点については「プラスティックを使った他社製品とは格段の違い」というモスバーグの指摘が代表的だろう。
また余談になるが、プラスティックをつかっている分だけ手に持っても滑りにくいというメリットがあるNexus 7は、「それなど悪くない」というのが私自身の印象(決して安っぽくはみえないし)。だが、金属を使っていてもiPad miniのほうが軽いというのだから、モスバーグのこの意見には文句のつけようもないかと思う。また、iPadやiPhoneのゴリラグラスに比べて、Nexus 7の液晶画面はどことなく傷つきやすそうだなと心配になり、ひさしぶりに保護フィルムを貼ってしまった者の実感にもこれは合致する。
モスバーグはiPad miniに関して「フルサイズ版の経験が、そのまま片手でもてるサイズの端末」で可能になること、さらに長く片手で持っていても疲れが少ないことなども前向きに評価している。一方、トポルスキーは「(これまでフルサイズ版を使っていた人間には)ちいさい分、馴れるまでに時間がかかる」と指摘している。
なお、トポルスキーによると、iPad miniは縦に持ったときの左右のベゼルの幅が上下に比べて狭く、その分だけ画面に触れてしまいがちに思えるが、実はしっかりと誤動作防止の調整が加えられているという。
価格
発表時に証券アナリストなどをいちばんがっかりさせたのが価格設定。Nexus 7やKindle Fire HDにくらべて、エントリーモデルで約130ドル高いという違いははっきりしているので、あとはこの価格差を「どれだけ正当化できるか」というのが焦点となる。
iPadシリーズの価格比較
この点について、NYTのデビッド・ポーグは「200ドル前後の他社製品よりもずっと上品で魅力的なつくり、しかもカメラも2つ付いている」「Androidタブレットのユーザーには夢でしかないほど豊富なアプリの品揃え」などとかなり好意的。さらに「iPadはもともとこのサイズのほうがよかったのではないか」と手放しの褒めようである。ちなみに、iPhone 5の時にあれほどさかんに攻撃していたLightningコネクタへの言及はまったく見られない。
一方、モスバーグは「どうせ329ドルも出すなら、もうすこし予算を上乗せしてフルサイズのiPad 2を選ぶ」という人がいても不思議はないとしつつ、「iPad miniの特徴は価格(の安さ)ではなく、サイズのコンパクトさ」というアップルの言い分を引用しながら、「iPadは大好きだけど、ちょっと大きすぎる、重すぎる」という人には、「iPad miniが最適の製品」と結んでいる。
また、ほかのプラットフォームにはないアプリをつかえることだけでも「130ドルを余計に出す価値がある」というのはトポルスキー。ドローイングソフトの「Paper」やアップルの「GarageBand」は、まだiOSにしかないのだそうだ。
その他の特記事項
Daring Fireballのグルーバーは、近頃増えているらしい「複数のガジェットを常に持ち歩く人間」の一人。具体的には、MacBook Airの11インチ版とiPad 3がいつもカバンの中に入っているとのことだが、この組み合わせ(二つあわせて約3.8ポンド)よりも、新しいMacBook Pro 13インチ(Retina Display搭載版)とiPad miniの組み合わせのほうが多少重くなっても好ましい、という意見を記している。
これは「iPadをもっぱら読むための端末として使い、文章やメールを書くのはMacでやる」という使い分けをしているため。逆に、端末をひとつしか持ち歩きたくないという人には「11インチのMBAか、フルサイズのiPadのどちらか」がよく、iPad miniはなにか作業をするのには不向き、と言外にほのめかしている。
最後に、今回紹介した各氏のレビューを載せて本稿の結びとさせてもらう。
参照情報
- The iPad Mini - Daring Fireball
- iPad mini review - The Verge
- Splintered News on 3 Touch Screens for the Holidays - NYT
- Sizing Up the New iPad Mini - WSJ
- The perfect size, but at a price - CNET
(敬称略)
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