選挙でソーシャルメディアを活用するのは当たり前、情報は分析してこそ価値が生まれる。写真はオバマ大統領とFacebookのマーク・ザッカーバーグCEO(出典:Christopher Dilts/Obama for America)
米国の大統領選挙でオバマ大統領が再選を果たした。
この勝利をもたらした重要な要因がオバマ陣営の「情報戦」に求められるようだ。
オバマ陣営は徹底してビッグデータを活用したという話が、開票日翌日のTIMEの記事に載っていた。
アップルやマイクロソフト(とくにXbox)など、すぐにでも採り上げておかないといけない話題が山積みだが、今回はこの米大統領選挙に関する「旬のネタ」を紹介したい。
選挙対策のプロが頼ろうとする「長年の勘と経験」
『マネーボール』といえば、10年近く前に刊行されたマイケル・ルイスの原作が大ヒットし、一昨年にはブラッド・ピット主演で映画にもなったスポーツもののノンフィクション作品。零細球団の雇われGM(ゼネラルマネージャー)であるオークランド・アスレティクスのビリー・ビーンを「表の主人公」に据え、経営資源が限られるなかでチームを改革していく姿を描いた作品だ。詳しい説明をあらためてする必要もないだろう(註1)。
この作品の「裏の主人公」ともいえるのが「セイバーメトリクス」と呼ばれるデータ活用手法——選手のパフォーマンスに関するデータ分析から、過小評価されている(ローコストで雇えるハイパフォーマンス)プレイヤーを獲得・育成したり、なによりも出塁率と本塁への帰還(得点)率を重視する戦略・戦術をあみだし、それを徹底させて、経営資源(ヒト、モノ、カネ)の面で何倍も有利な大都市のチームに挑んでいく……といったことも、この作品を目にされた方ならすでにご存じだろう。
『マネーボール』では、データをもとに判断する側と、勘と経験で判断する側の間で葛藤が見られる。
優れた身体能力を持ち、プロ野球選手として将来を嘱望されながら、MLBでは結果を出すことができなかったビリー・ビーンと、ハーバード大で経済学を専攻したアシスタントGMのポール・デポデスタが推すデータ野球。そして彼らに「disrupt(破壊)される側」の象徴的存在として、長年の勘と経験に頼って選手を集めようとするスカウトや、同じやり方で選手の起用を決めるアート・ハウ監督らの姿が描かれている。
先のTIMEの記事を読んでいる最中にまっさきに思い浮かんだのが、あのベテラン・スカウトらのことだった。「どぶ板選挙」「選挙対策のプロ」などという言葉くらいは、一有権者に過ぎない自分でも耳にしたことのある言葉だが、いまではどぶ板選挙でさえデータが使われている。「一票のお願い」に上がる対象の絞り込みや優先順位付けでさえ、データ解析の結果に基づいているのだ。
さらに、この変化のなかで、勘と経験に頼る選挙のプロの役割が薄れ、それと反比例するかたちでデータサイエンティストと称される人々の重要性が高まっている——。
TIMEの記事の基調はそうした変化を伝えるもの、といえそうだ。(次ページ「データ分析でジョージ・クルーニーに白羽の矢を立てる」)
註1:マネーボール
『マネーボール』の脚本チームに、アーロン・ソーキンの名前を見つけることができる。
ソーキンといえば、フェイスブックの立ち上げ期を描いた『ソーシャル・ネットワーク』や、現在映画化に向けて準備が進んでいるとされるスティーブ・ジョブズの伝記の脚本も手がけることが決まった、当代きっての売れっ子ライターだ。
また、ビリー・ビーンの右腕として活躍したポール・デポデスタは、のちにロサンゼルス・ドジャースのGMになり、現在はニューヨーク・メッツのスカウトとなっている。