ギャング・オブ・フォーの一角、アマゾンもハイパー節税策に邁進
4月に「税金を払わないIT企業」と題したコラムを、5月には「ハイパー節税策の先駆者 アップル」を書いて、米国の多国籍企業に対する法人税と、各社が国外に留め置く余剰資金の話を紹介した。
この話、長く続いた大統領選挙の関係から話題になることが少なくなったが、ここに来てまた目立ち始めてきた。各国政府による対策や取り締まりの動きが活発になってきたのだ。
本格的な議論は年明け以降になりそうだが、本稿ではこれまでのおさらいと、ここ1カ月ほどの間に目についた報道各社の記事を紹介したい。
「税金を払わないIT企業」のおさらい
米国時間12月11日付でWall Street Journal(WSJ)が掲載した記事には、「財政の崖」の回避に向けた増税・歳出削減に関するホワイトハウスおよび共和・民主両党の話し合いに関し、法人税(率)の見直しを議題に含めるという打診がホワイトハウスから共和党側にあったと記されている。
富裕層への課税強化や医療費関連の歳出削減など、主に個人が対象となる案をめぐって展開してきたこの議論で、法人税が議題に上るのはこれが初めてのことだという。
以前のコラムでも触れたように、米国ではここ数年、時代の状況にそぐわなくなった法人税制の大幅な見直しが課題となっている。特に他の先進諸国の大半と比べて高い法人税率(現状は35%)は、引き下げを求める声が以前から上がっており、今春にはオバマ政権が28%に抑える提案を、共和党側は25%まで引き下げる提案を出していた。また、いずれの案にも米国内での雇用創出を意識した製造業への優遇措置が含まれていた。
同時に、法人税率の内外格差の結果として、アップル、グーグル、マイクロソフト、シスコシステムズなどの米国に本拠地を置く多国籍企業が、利益の多くの部分を海外に滞留させるという現象も生じている。企業側は、国外市場の利益を米国に持ち込もうとすると、現地の税率と米国の税率の差分である「Repatriation Tax」が追加徴収されてしまうため、米国内に投資したくても簡単に資金を持ち込むことができない。それが投資を通じた雇用創出の妨げとなっている——と、そんな風に主張し、「タックスホリデー」と呼ばれる期限付きの優遇措置の実施を通じて、この資金を持ち込みやすいようにしてほしいと政府や議会に要求している。
ただし、ブッシュ政権時代にタックスホリデーが実施された時は、海外から持ち込まれた資金の多くが株主への配当金支払いや自社株買い戻しを通じた株価の引き上げに使われ、結局雇用創出にはあまり役立たなかったという調査結果も出ている。
そのため、前回と同じように杜撰ともいえるタックスホリデーが実施されれば、大きな批判を浴びる可能性も高い。それでも、さまざまな企業がタックスホリデーの再実施を見据えて、海外に留め置く資金の量を積み上げているという状況にある。
さらに、高額所得者への税率引き上げの提案とも連動する問題もある。タックスホリデーによって企業から株主(投資家)に流れるお金の少なくない部分が、投資した法人からその経営者などに「パススルー」され、通常の所得税より低い税率の「投資からの利益」として処理されることも問題となっている。自分の立ち上げたベインキャピタルが関係するファンドで、そんな手をさんざん使って評判を下げたミット・ロムニーは、こういう制度悪用の代表例とも言われた。
いずれにしても、何らかの大幅な見直し策を打ち出すにあたっては、いろいろな穴を先にふさぐ必要があるということだろう。
また、どこの国の財政も、どこの家庭のやりくりも苦しい現在の状況で、たくさんの利益を上げながら気前良く税金を払わない企業に対する風当たりも強い。
株主というステークホルダーの手前、経営者としては気前良くふるまいたくても、なかなか簡単にはできないという方が実情だろうが、批判する側はそんなことお構いなしだ。なかには「グーグルの共同創業者に対して、スタンフォード在学中に研究資金を提供したのは米国政府なのに」といった、いささか八つ当たり気味の批判も混じっていたりする。
グーグルのような大企業が、世界各国の税制の盲点を利用しながら実効税率で2〜3%程度の税金しか払っていないという事実は繰り返し報道され、またそれを批判する声も上がり続けている。
そんなところが、これまでのおさらいとなる。ここから先は、この1カ月ほどの間に目にした関連の話題を紹介したい。